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千と千尋の神隠しのtakのレビュー・感想・評価

千と千尋の神隠し(2001年製作の映画)
4.8
トンネルの向こうは、ノスタルジックなんだけどみたことのない不思議な世界。八百万の神々や建物の造形がまず目をひく。ありきたりな言い方をすれば、和製「不思議の国のアリス」なんだろうけど、単なるおとぎ話に終わらない。ここには現代が見え隠れする。こんな発想ができる宮崎監督の感覚の鋭さに圧倒される。

主人公千尋は、今までの宮崎アニメに出てきた前向きな美少女タイプとは違う。甘ったれのヘナヘナした現代っ子だ。ところが、不思議な世界での体験を通じて、自立心と誰かの為に行動することを学んでいく。敢えて言えば”成長物語”の部類に属する話なのだろうけど、教科書的な前向きの生き方を示す訳でもなく、ストレートな説教臭さはない。

この映画は宮崎駿監督の優しくて静かなるお説教だ。お説教というのがオーバーならば、日本人へのメッセージだ。八百万の神々をこんな形で表現することで、ニッポンの伝統を語り継ぐことを訴えている。「元気を出せ、ニッポン!」と昔どっかの政治家がちっとも響かない言葉を発していたけれど、それとは違ってこの物語で勇気づけられる子供たちもいっぱいいることだろう。性格や人格が変わる訳じゃない。でも行動することはできるんだ。もしかしたら自分も。そう子供たちが思ってくれたらいいな。

でもここで宮崎監督が「元気を出せ!」と言っているのは大人たちに対してもではないだろうか。千尋の親たちは自分の欲望に走って豚になる。他人には厳しいことを言うくせに、自分の子供は病気になるからと外にも出さない湯婆婆。大人のエゴ。

説教とは違うけど、この映画の中で千は周りから「お世話になりますくらい言えないのかい!」とか様々なお叱りを受ける。現代っ子ってもしかしたらこんなことも言われた事がないのかもしれない、そうも思った。

そんな思いを抱いて劇場を出たら、チケットを買う列に割り込む母親の姿がありました。あのお母さんは、あの後「千と千尋」を観て何か感じてくれるだろうか?。自分も親の一人として襟を正したのでした。