河豚川ポンズ

スパイダーマン:スパイダーバースの河豚川ポンズのレビュー・感想・評価

5.0
大いなる責任を背負うために大いなる力を求める少年の映画。
予告編の段階から面白そうだなあとは思ってたけど、まさかアカデミー賞の長編アニメーション部門を取ってしまうとまでは思ってなかったし、なんやかんや言ってもそこまでじゃないしハードル上げすぎやろ…ってなってた。
でも実際観てみたら、そんなの全部吹き飛んでそりゃ受賞しますわって出来だった。
スパイダーマンの映画でこれが一番面白かったという人がいるのも納得。

ブルックリンの名門高校に通うマイルス・モラレス(シャメイク・ムーア)は、転校したばかりということもあってか学校のエリート主義な雰囲気に馴染めずにいた。
警官の父親のジェファーソン・デイヴィス(ブライアン・タイリー・ヘンリー)の心配もよそに、マイルスは叔父のアーロン・デイヴィス(マハーシャラ・アリ)とともにグラフィティに励んでいた。
そこでマイルスは突然変異したクモに噛まれたことでスパイダーマンとしての能力を獲得する。
突然の出来事で、力をうまくコントロールできない彼は戸惑うが、ひょんなことから地下で"スパイダーマン"ことピーター・パーカー(クリス・パイン)とキングピン(リーヴ・シュレイバー)との戦いに巻き込まれる。
異次元の扉を開こうとするキングピンに対してスパイダーマンはそれを阻止しようと懸命に戦うが、異次元を開く量子加速器の爆発に巻き込まれて瀕死に追い込まれる。
スパイダーマンはマイルスに加速器を止めるメモリースティックを託し、キングピンによってとどめを刺され殺されてしまう。
ニューヨーク中が悲しみに包まれる中、マイルスは使命を果たすためにスパイダーマンとしての訓練を始めるが、頼る相手もなく、訓練もうまくいかず、ついにはメモリースティックを壊してしまう。
憧れのスパイダーマンの期待に応えられず落ち込むマイルス、そんな彼の前に突如現れたのは異次元からやってきたスパイダーマン、ピーター・B・パーカー(ジェイク・ジョンソン)だった。


2014年に原作コミックで始まった人気エピソードの「スパイダーバース」を映画化…とは言ってもアニメ用にかなりストーリーは作り変えられており、主人公もヴィランも舞台も違えば、もはや設定だけを借りてきた別物。
でもそれをただのお祭り映画に再構築するのではなく、しっかりとマイルス・モラレス一個人の成長物語として綺麗に1本にまとめ上げてきたのがこの映画のいいところ。
スパイダーマンの力を手に入れたとは言っても、ろくにコントロール出来ない彼は、成り行きとは言えヒーローとして理想像であるピーター・パーカーから多元宇宙”マルチバース”を救うという大きすぎる使命を引き継いでしまう。
今までのスパイダーマン、そして今回マルチバースからやってきたスパイダーマンたちのルーツが「大いなる力には、大いなる責任が伴う」だったのが、マイルスの場合は「大いなる責任を背負うには、大いなる力が求められる」という全く真逆の展開。
これだけでこの映画、そしてマイルス・モラレスというキャラクターが抱えるストーリーが今までのスパイダーマンのストーリーとは大きく異なってくることが分かる。
その上で、彼がどのようにヒーローとして立ち上がっていくのかというところに、ストーリーの焦点が強く当たり続ける。
家族との関係や淡い恋愛要素もあるけど、ほとんどはテーマを動かすための舞台装置ぐらいの存在感しかない。
コミックやゲームの世界では完全に主要キャラクターとしての市民権を得ているマイルス君だけど、これはそれを知らない人たちにとってもすごくいい自己紹介になったと思う。

色々なマルチバースからやってきたキャラクター達、そしてその影響によって起こることを映像表現で表しているのがすごく特徴的。
マイルスはスプレーアート、グウェンはモダンアート、ノワールはモノクロ、ペニーは日本のアニメ、スパイダーハムはカートゥーンといった感じで、その演出が彼らの個性を演出する。
ただでさえキャラクターも多くて情報量が多いのに、それらが入り乱れてガシガシ戦っていくからとにかく目が忙しい。
今回のアカデミー賞でも確かに「インクレディブル・ファミリー」もすごくエキサイティングなアクション映画だったけど、それを贔屓目に見てもこっちの方がずっとヤバい。
もうとにかく観ないとこれは分からないと思うので、語彙が貧弱になるのも許してほしい。

自分にしては珍しく字幕で観るか、吹替で観るかで本気で迷った。
吹替もめっちゃ豪華なのも分かりきってたけど、字幕もキャスト欄見てみたらすごいことなってたし、こればっかりは2回観に行かないといけないなと腹をくくった。
IMAXと時間の関係で先行上映は字幕だったんだけど、(文字通り)死ぬほどカッコよかった時のピーター・パーカーの声がクリス・パインだったし、ノワールはニコラス・ケイジ、キングピンはリーヴ・シュレイバー、アーロンおじさんはマハーシャラ・アリだしで、脇役なのにキャストに力入れすぎてない?
そのまま実写化してもやっていけそうなメンツしてる。

スーツや背景やセリフや演出や構図や、気のせいかいつも以上に小ネタ満載だった気がする今作だけど、そんなまどろっこしいこと関係なしにとにかくカッコいいスパイダーマンが満載の爽快な超快作だったので、日本でもバカ売れして是非とも続編につながって欲しいなあ。