Kuuta

スパイダーマン:スパイダーバースのKuutaのレビュー・感想・評価

4.3
普段アメコミものは敬遠しているのですが、評判の高さに釣られてIMAX3Dで鑑賞。

「漫画を舐めるな」。このセリフに全てが込められている気がする。多彩な映像で圧倒しておきながら、伝統的な2Dアニメのスパイダーハムに言わせる所が憎い。

スパイダーマンという文化(漫画という表現方法)をあらゆる手段を使ってぶん投げてきた感じ。エンディングのスパイダーマンの大洪水を見てると、このシリーズが積み重ねてきた文化的な厚みをそのまま浴びているようで、あまりの情報量にクラクラした。

一枚絵でもあり、漫画でもあり、アニメでもあり、映画でもある。「今劇場で見るべき一本」と聞かれたら間違いなくこれ。紙に書いたような質感のアニメーション。背景で色がズレ、キャラクターごとに3Dだったり2Dだったり、コマ割りが異なるように動き方もバラバラなのに、一つの画面になぜか収まっている。絵が連なって動く喜びを久々に感じられた作品だった。

オープニングのロゴのカオスっぷりからテンション上がった。腹の出た中年ピーターが何だかんだで指導してくれる森のシーンの勢いも素晴らしい。クライマックスは、装置の見た目からして丸いドットの氾濫のようだった。

原色ギットギトのポップな映像、編集、音楽だけでも充分に元が取れる映画だが、お話も予想以上にしっかりしていた。

「クモに噛まれる→悩む→悲劇→覚醒」というお馴染みの展開を軸にどんどんスピードアップしていくので、一見さんでも入りやすい。今回はアイデンティティの葛藤を、思春期の少年の親との距離の取り方に重ねている。マイルスもまた1人のヒーローである責任と重圧を背負い、中年ピーターと別れを告げ、自分の世界のために立ち上がる。

中盤までは、自分の能力を扱えずに苦労したり、他のスパイダーマンに文字通り振り回されたり、という受動的なアクションが続く。自分が何者か分からない不安が、地下の壁に描いた絵や、透明化能力に重ねて描かれる。しかし後半、透明な力は自らの姿をいくらでも変えていける可能性に姿を変え、黒人的?と言っていいのか分からないが、スニーカーで陸上を走る動作を交えたマイルス流の空中アクションが、それを証明する。

自分らしい絵を描き、新世代のスパイダーマンに覚醒するマイルスの姿には、スタン・リーの意思を引き継ごうとする作り手の覚悟が重ねられている。まだ何も描かれていない世界に足を踏み出し、自分の想像力を爆発させる。縦横無尽に動く一つ一つの絵が、作り手の努力の結晶であると同時に、劇中のマイルスの自己実現と見事にリンクしている。

多元宇宙というフォーマットを、あらゆる悲しみや孤独を抱える人間に勇気をくれたスタン・リーへの感謝に繋げる発想も、なるほど上手い脚本だなあと思って見ていました。86点。
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