りっく

スパイダーマン:スパイダーバースのりっくのレビュー・感想・評価

4.5
控え目に言ってもアニメーション映画史に残る傑作。パラレルワールドにより複数のスパイダーマンが登場する本作は、ソニーピクチャーズ製のアニメーションのタッチがベースにありつつも、スパイダーマンが描かれたコミックや漫画のコマをそのまま動かす、あるいはキャラクターに命を吹き込むことに意識的に試み、完全に成功している。

また、そんな世界観がベースにありながらも、個々のキャラクターをひとつの世界観の中に当てはめて配置するのではなく、個々のキャラクターのタッチをそのまま絶妙なバランスのひとつの画面に配置する、あるいはアクション場面になると矢継ぎ早に異なる世界観が連なっていく。その途方も無い情報量と、驚異的な仕事に圧倒される。

例えば、ノワール的なハードボイルドのキャラクターであればパルプマガジン調の世界観。手塚治虫のヒョウタンツギを連想させるキャラクターであれば手描き漫画調の世界観。日本の美少女的なキャラクターであればライトノベル調の世界観。それらが同居混在する画など、かつて見たことがない。

また、それらの世界観をまるごと肯定しエンターテイメントにしてしまう偉業は、コミック、漫画、アニメと脈々と流れる歴史、さらにはスタンリーという偉人に最大限敬意を払うと同時に、本作のテーマである誰もがスパイダーマンになれるという個性の尊重というテーマと完全に一致しているのだから凄まじい。

また物語もスパイダーマンが持つ、親代わりの肉親の死、思春期ならではの人生への迷い、そして不仲だった父親との和解というポイントを換骨奪胎し、それでいてオリジナリティ溢れるものへと昇華してみせる。本作が果たした功績は計り知れない。
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