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スパイダーマン:スパイダーバースのymdのレビュー・感想・評価

4.8
映画を観ることの多幸感をこれほど感じさせてくれる作品に出会えるとは。アメコミ知らないとかスパイダーマン多すぎて見たことないとかアニメだから気が引けるとか、もし少しでも観ることに躊躇う気持ちがあるのならすぐに頭空っぽにして観て欲しい。ここには映画の魔力が宿っている。

かくいうぼくもアメコミ自体は一冊も読んだことがないし、サム・ライミ版とジョン・ワッツ版のスパイダーマンは観ているけどアメイジングは未見なのだが、そんな前知識とか前提とか心構えとかはまったく不要。観る人すべてを包み込む寛容な映画である。一本の単独作品として完成されている。

とはいえ多少でも知識があるとグッときたりクスリとさせたりするファンサービスも抜かりない。

予告編だけでも分かるようにコミックがそのまま動いているような漫画らしさ(吹き出しとかコマ割りとか)と動画でしか表現しようのないシーン繋ぎとサイケデリックなヴィジュアルが圧倒的にオリジナル。現行ヒップホップを使ったBGMもセンスフル。個人的にジュース・ワールドの“ハイド”が最高だった。

アニメーションであることの強みとならではの面白味を最大限生かした映像だけでもう興奮は最高潮である。

ストーリー自体は取り立てて奇抜な展開や結末が用意されているわけではないんだけど、しっかり見せるべきところ(スパイダーマンは家族の存在が大きなファクターである)は時間をかけて掘り下げ、ヒーローにならざるを得ない状況に立ったときに己のアイデンティティを見つめ直して成長していくというスパイダーマンシリーズに欠かせないジュブナイル要素であるとか。この映画でもそうした重要なマテリアルを斬新な映像手法の中でしっかりと描き切っている。

ディズニー(とピクサー)とジブリとライカがアニメーション界を席巻しているような時代にあってまったくオリジナルで斬新な見せ方をした今作は本当に革新的だし、この映画がオスカーを獲ったのは必然。

まだまだ映画にはたくさんの可能性があることを教えてくれる素晴らしい作品だった。
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