エイト

スパイダーマン:スパイダーバースのエイトのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

アメリカアニメーションの本気を見た。

「Spider-Verse」というタイトルの通り、様々な「次元」(厳密には違うと思うが)のスパイダーマンが集まり、ユニバースとして戦う。本作で行われていることは、同じMARVELの『アベンジャーズ』に似て非なるものだ。『アベンジャーズ』は様々な作品が我々の世界に存在し、視聴者はそれを全部網羅して見ることでより『アベンジャーズ』の世界観や設定への理解を深めるが、本作はその行為を既に内包している。1つの作品に触れただけでは「世界の全体像」を把握できない『アベンジャーズ』は、ある意味で我々が存在している世界の複雑さを表象している。その反面、『スパイダーバース』はその複雑な世界を既にパッケージされているのだ。

そうした複雑さは、キャラクターのグラフィックにも現れている。ペニー・パーカーやピーター・ポーカーのグラフィックは、マイルスの世界グラフィックを背景としながらも、なお自身のグラフィックを保つ。その他にも、映像の細かな所に注目すると、丸い粒のようなざらつき(恐らくコミック表現における点描のようなもの)や、スプレーがカメラにかかったり、フキダシが現れたりコマ割りがされていたり、漫画的な表現が多く見られる。美術手帖の記事では、こうしたある一定のビート(映像)の上に、異なる速度のビート(映像)をいくつか載せ、更にそのリズムにあわせて足を高速に動かしてダンスを踊る、ジューク/フットワークという音楽のジャンルと構造が似ていると指摘されていた。こうしたリズムの組み合わせは複雑化を招くが、こうした重ね合わせのリズムを単一のリズムとして生成していくのが本作だ。分裂を分裂のまま、複雑に絡み合わせ、統一させていく様をスタイリッシュに描く。映像は、まさにカッコいい。(ビルから落ちていく様はMVのようだし、フレーム数を減らしてカクカク動かすのも味わいがあった)

さらに言えば、本作の物語的なテーマに「靴」がある。グウェンやノワールは独特の靴を履いて戦うし、マイルスもNIKEのエアジョーダン1を履く(ラストで、脱ぐのかよ!と思ったが)。度々靴ひもがほどけてるよと指摘されていたマイルスは敢えて結ばない。それ故に紐を踏んで転ぶ。その紐を結び、スーツを来てビルの壁をスニーカーで駆けていく様はストリートカルチャーを思い出させる。思えば、マイルスの趣味はスローアップだった訳だが、彼らはキャンパスを自分で用意することは出来ない。元からあるテクスチャの上に自らのイメージを載せる。これは先程指摘したような、本作のグラフィックと相似している。

本作はスパイダーマンの顔であった「ピーター・パーカー」を殺す。それはストリートカルチャーとして既存のスパイダーマン概念を蹴り壊していくし、上塗りしていくことだ。だが、スパイダーマンの系譜は続いていく。車での会話や、クラスで浮いていた少年が「親愛なる隣人」となる過程がそれを示している。それをスタイリッシュかつ、複雑に行うのが本作だ。ヒスパニック系という属性の主人公がそれを行っていく点は、まさにユニバーサルな世界を暗に示している。
本作は、2010年代後期の作品として優れた作品の1つであり、日本とは異なる手法でここまで記述してきたことをやってのけた。まさに本気だ。こうした作品に出会えることはそうそうないし、個人の想像力で太刀打ちできるか分からない、そういう「次元」にまで本作は到達しているかもしれない。
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