140字プロレス鶴見辰吾ジラ

リビング ザ ゲームの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

リビング ザ ゲーム(2016年製作の映画)
4.2
”普遍的なMADな奴ら”

プロの格闘ゲーマーたちの世界を覗き込むドキュメンタリー映画。

「ウメハラ・ダイゴ」
この世界を知らなくとも、一度は耳にしたことがある人物ではないだろうか?

世界では「イチロー」というメジャーリーガーであったり、「羽生結弦」というフィギュアスケーターだったり、「シンスケ・ナカムラ」というプロレスラーであったり、その道を極めた超一流のプレイヤーがニュースで取り上げられる。

一方、今作の「ウメハラ・ダイゴ」をはじめアングラな世界で活躍する日本人も存在している。ニュースに取り上げられるラインでいうと、一時”早食い”というジャンルにおいて一世を風靡した「小林尊」が記憶に新しい。

現在でこそ「e-sports」と呼ばれ、注目を集めるようになったプロゲーマーたちの知られざる世界にスポットライトを当てた作品である。

ただそこに映し出されているのは、紛れもなく頂点を目指し極めようとする者たちの”MADな世界”なのだ。

劇中で語られるプロゲーマーたちは、「ゲームが大好き」「ゲームで稼いだ賞金で生活すること」ということに背徳感を感じている者が多い。中でもフランスを代表する「ルフィ」というゲーマーは、広告代理店に勤めていて、自らがゲームの道で稼いでいくことに否定的であるというコメントを残している。しかしながら、彼らはゲームという舞台であれ、好きなものに対しての情熱を彼らのセカイの中で折り合いをつけて、闘志を燃やすプロ選手と変わりはない普遍的な感情の中に生きている。実際に肉体を駆使する格闘家と同じで、ゲームという1/60秒の駆け引きの世界に自らの信念で身を投じたものたちの歓喜や苦悩やそしてハンドルネームという仮面を被った、内側の世界のそれぞれの背負った生活、過去、プライド、大切な人が映像として浮かび上がることに心が動かずにはいられない。

広告代理店務めのルフィ
父に隠れスキルを磨いたジャスティン・ウォン
貧困層で育ったゲーマービー

世界のトップに駆けあがり、栄華と重圧に苦悩するももちと同棲相手のチョコブランカ

そしてレジェンドであるウメハラ・ダイゴ

それぞれの選手にそれぞれの心境があるというエモい作りになっているが、劇中の父と死別したゲーマービーのエピソードの挿入タイミングや、ももちが同棲相手のチョコブランカに容赦なくゲーム稽古をつける場面や、新居と負けることの苦悩との対比として、その世界のレジェンドというか仙人のような立ち位置になったウメハラ・ダイゴの理念と、上記で挙げた頂点を極めようとする者たちの普遍的なMAD性に溢れたドキュメンタリーとなっている。特にウメハラvsジャスティンの奇跡の大逆転を映画的にスロー+ズームアップで見られたことは何よりうれしいし、現在公開中の「ちはやふる 結び」における”一瞬を永遠にとどめる”という行為はどの世界においても賛美され、神格化され、羨望の的になるものに違いないと思わされる。

あなたが知らない世界

あなたが知らないだけの世界

これを堪能できるドキュメンタリー映画、光だろうが影であろうが、批判的であろうが、エモくあろうが、時間を浪費して体験するに足りる熱量を秘めているに違いないと思わされた。