ラグナロクの足音

欲望のラグナロクの足音のレビュー・感想・評価

欲望(1966年製作の映画)
3.8
おー後半にかけてサスペンス的展開だが、ストーリーの根幹にあるのは写真(映画)の本質に迫る噛みごたえある内容。ある日、天才カメラマンが公園で撮った写真に写り込んだ殺人事件に気づき、ミステリーに巻き込まれていくという展開。「グラビアはセックスである」というのはよく聞くセリフだが、本作の主人公もまさにセックスをするように撮影を楽しんでいる。しかし、撮影で疑似的セックスを体験する彼は美人に物足りなさを感じてしまっている。彼が求めているのはアバンギャルドな写真。写真家としての欲望のみが彼を突き動かしている。写真が出来上がるプロセスを余すことなく描き、欲望のままに被写体を探し、断りもなく現像過程もしっかり描いており、現像した写真からドラマを構築していく点が新しい。さらには構築したドラマから、徐々に場面をフォーカスしていき事件の様相をつかんでいくプロセスはかなり作為的だ。さらにライブハウスでのシーンではジェフ・ベックとジミー・ペイジを招きパフォーマンスをさせたり、そしてロックのライブハウスというのにも関わらず全くの無表情で人形のような観客のコントラストがまたシュール。そしてラストのパントマイム。ここで彼らがエアテニスを披露するのだが、このシーンにカメラの本質がある。カメラの本質とは不可視な世界を可視化することにある。パントマイムもまた然り、無い物をまるであるように演じるのである。彼らの世界に入り込む主人公。目で無のボールを追い、まるで本当にあるかのように見える。さらに終いには音まで付随してくる。完全に主人公の頭の中ではイメージが具現化されている。だがしばらく目で追っていた主人公はふと気づいたように空虚なまなざしに戻り、彼の体も徐々にフェードアウトしていく。彼は可視世界と不可視世界のどちらに消えたのだろうか。謎で終わる。
ラグナロクの足音

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