pika

欲望のpikaのレビュー・感想・評価

欲望(1966年製作の映画)
5.0
はぁ、好き。
何から何までツボにハマる。見進めるごとに胸が高まってどんどん好きになる最高の映画!
説明表現がドSなアントニオーニ。オープニングからたまらんたまらん。初見は画力と魅力と面白さの衝撃に圧倒されてしまうが二度目だと演出意図とか細かいところにまで目を向けられるからさらに美味しい。アントニオーニは見るごとに美味しさが増して行く予感。他のもまた見たくなってきた。

主演のデヴィッド・ヘミングスの顔面もキャラもカッコいいしたまらんのだが、大好物な「人物が淡々と何か作業をしている」シークエンスが音楽も台詞もなく丁寧に描写されていてさらに至高。汗をかくほど真剣に黙々と取り込んでいるってのがミソ。あぁ最高。
その上、ヘミングスがカメラのシャッターを切る度にどんどんフレームが引いて行ってカット割るたびロングショットに切り替わっていく流れが超最高!
ロングショットがたまらん映画なのでblu-ray出してください。お願いします。

物質主義社会への風刺なのか、売れっ子ファッションカメラマンのヘミングスがファッションの撮影に飽き飽きして生々しいリアルを求め、社会派写真に傾倒しBLOW UPすることでフィルムに写し出されているものに自分の願望が投影されていくと言う流れは、物や世間の評価に価値を求めていた人間が目指した先に到達した時、追い求めてきたものの価値を見失い迷走してしまうというところに、人間にとっての価値は他者からの評価や物の中にあるわけではないという示唆が見える。ような気がする。弱気。
骨董店屋の買収、その主人の女の子が夢見る国への風刺、それまで棒立ちだった観客たちが投げ出されたギターに群がる展開など、細かいところに戦後に訪れた先進国の現実に対する警鐘を感じる。
この映画が今見ても全く古臭く見えないのは、映像や音楽のセンスやアントニオーニの手腕だけでなく、映画そのものの中核を成すメッセージそのものが現代にも通じている問題だからなのかな。
当時とはまた違った形で根強く残っている問題であるし、むしろ現代の方がさらに膨れ上がっている難題でもある、と思う。視点が鋭すぎる。

ラストの流れの完璧さ。何度見ても痺れる。あのオチの出し方、答え合わせは悶えるようなニクさ。カッコいい〜たまらん。
カメラマンの技術なのかアントニオーニの演出なのか塩梅はわからないけど全編カメラワークが超好み。なんでそんな角度なの?その構図なの?そう動くの!?みたいな切り口が逐一秀逸で画面見てるだけで興奮する。
ヘミングス然り、表情の演技は良いのに声のトーンというか喋ると途端に心ここにあらず的な、ブレッソンのモデルたちみたいになるのは敢えてなのか。
中盤、若い女とセックスする流れで繋がれるジャンプカットの後から目覚めるまではヘミングスの夢なんじゃないか。夢か妄想か幻想か、願望か。
画家の彼女がヘミングスの家へ来た時に交わされる会話の繋がらなさや、ライブでの棒立ちな観客達など、ヘミングスが現実を自分の頭の中で整理、処理している過程なんじゃないかと思ったり。
アヘン窟みたいな館で目覚めたという点も若い女たちとセックスしたあとジャンプしたという点も何となく説明がつくようなつかないような。棒演技になるのも演出で、カット割やアフレコの時にわざとそうしてリアル感を薄めてるのか。
何度見ても痺れる大好物なツボ映画なので何度も見て何度も考えよう。楽しすぎ!
pika

pika