カルダモン

欲望のカルダモンのレビュー・感想・評価

欲望(1966年製作の映画)
5.0
説明らしき描写がほとんど無い。劇中では主人公の名前すら明かされない。ただ、この作品の大きな魅力は「説明のされなさ」であることは間違いなく、画面に映るものから物事を読み解く楽しさはほとんど絵画的と言っても良い。

ファッションカメラマンの主人公は生活感のない暮らしで、ロールスロイスのオープンカーに乗り、デザイン家具を揃えた部屋で女の子達にチヤホヤされているという実にいけ好かない男なのだが、どこか空虚な彼はそういった生活には既に飽きている。
ある日、公園にいた一組のカップルを何気なく盗撮する。現像した写真には違和感があった。トリミングや拡大印刷を駆使しながら、何気ない写真が徐々に事件性を帯びてくる。一連の写真現像のシークエンスでは台詞もなくBGMもないが、静かな緊迫感に釘付けにされる。

写真は現実と虚構の境界のようなものだ。
乱暴ではあるけれど、画面を切り取った瞬間に現実は虚構の中に封じ込められる。
テレビや写真という四角い画面越しに見る世界は、たとえ身近な事であったとしても現実とは程遠い。

主人公のまるで作り物のような現実は虚構であり、パントマイムのテニスは虚構の中の現実である。
見たいものを見せる力、そんな念写のように曖昧模糊とした画像に、ふとテニスボールの弾む音が鳴り響く。