イチロヲ

欲望のイチロヲのレビュー・感想・評価

欲望(1966年製作の映画)
4.0
ポートレイト撮影に情熱を注いでいる写真家が、見ず知らずのカップルに対する盗撮行為を契機にして、トランス状態へとドロップしてしまう。世間ズレした写真家(=厭人家)の不可思議な日常を切り取っている、サスペンス映画。

女性のほうから一方的に誘惑されるほどのプレイボーイが、女性との肉体関係に飽きてしまい、他人との精神的繋がりを求めるようになる。色男にも色男なりの苦難があることが描かれており、羨ましいのだけど羨ましくないという、珍妙な気分にさせられる。

ロンドン市民に対する人間観察の描写と当時のサイケデリック文化を収めている映像世界が興味深い。台詞芝居が最小限度に抑えられており、演者のアクション主体で物語が進行するところも素晴らしい。

丁々発止の撮影現場をセックスの暗喩にしていることは自明の理。人間的情緒の欠如と虚実不明瞭なアシッド体験へと落とし込んでいく作劇もまた鮮やかに決まっている。性衝動と性倒錯の波及力について、考えさせられる作品。
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