垂直落下式サミング

名探偵ピカチュウの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

名探偵ピカチュウ(2019年製作の映画)
4.6
シネコン上映時にもみたが、金曜ロードショーで再見。我々ポケモン世代にばちこりとキマる内容である。本当にかわいくて好きだ。身内に甘い。アベンジャーズにはスパルタでゴジラやポケモンには激甘評価という奈良判定(死語)を下すこととする。
まずもって、予告が公開された時点では超不安だったしわしわのピカチュウが受け入れられた時点で大成功。カートゥーンキャラクターを実写にする時はこのバランスだと、ひとつの最適解を示したと思う。
それにしても、ポケモンの世界をCG技術で実写に置き換えるという試みまではわかるが、ピカチュウはおっさん声で喋って、ストーリーはハードボイルドな探偵物語のパロディっていうたいしたやつ。原作のゲームがあるとはいえ、こんなよくわかんない無茶苦茶なはなしを成立させてしまうハリウッドの企画力に恐れおののくしかない。
とりあえず、出来の悪い探偵ものパルプマガジンのような行き当たりばったりをムードとキャラクターでもたせていく雰囲気の醸し出しかたが抜群である。学生のころに背伸びしてチャンドラーやハメットを読んだけど、あれに近い。主人公がなんとなく渋くてかっこいいことを言っているけど、肝心のストーリーは誰が誰かわからなくなって、読んでる最中に思い出せなくなるあの感じだ。それに、劇場版ポケモンらしいファンシーなアニマルパニック要素が加わり、子供にもわかる程度にサスペンスの内容を入り組ませてある。
遺伝子操作の改造ポケモンなど、倫理的な問題に踏み込んではいるものの、映画世界に当たり前のようにポケモンが存在するのをみているとストーリーの荒さは気にならないため、鑑賞中は世界に対して寛容な清い心を育むことができる。
ポケモン世界の豊かな生態系を活用した小ネタも豊富。強面アニキのポケモンタトゥーやメタモンの変身など子供映画らしいウィットに溢れており、脇役のポケモンにいたるまでCGの再現性も高い。野良エイパムは野性味があって好きだったし、薬物ガンギマリ中のリザードンはしっかり強そう。
ブースターがもふもふだったけど個人的にはシャワーズにしてあげたいし、ゲッコウガの質感ヌメヌメ滑っててキモかわいい。他にも、コダック、プリン、バリヤードなど、初期アニメシリーズで二番手・三番手に推されていた奴らが目立っていて、彼等の挙動に注目すると心にしみじみと込み上げてくるものがある。お前ら忘れられてなかったんだな。
ラストでピカチュウがピジョットに乗って戦うのもエモいし、ミュウツーの特別扱いには日本の認識とはまた違った独特の熱量を感じる。「アメリカが作る劇場版ポケモン」として必要なところをしっかりおさえる周到さがニクい。
エンドロールの小学館な感じもすごくよかった。数分の映像だが、ゲームボーイソフトの大ヒットから、コロコロコミック連載、同時にアニメがスタートし、果ては昨今のポケモンGOにいたるまで、メディアミックスの歴史に思いを馳せることができる。氾濫するイラストも金銀世代あたりのカラーリングを意識したもので、ここで再現されている淡い配色で塗りの薄いポケモン図鑑をもう一度押し入れから引っ張りだして読んでみたいと、そんなノスタルジーの沼に沈んでいく。俺だってポケモントレーナーなんだってことを思い出した。
最終的に、人はポケモンをとおして人種や世代や性別を越えて繋がれるとする結論を示せるのは、20年以上も規模を拡大しながら続いてきた巨大コンテンツという土台があってこそ。やっぱ強い、ポケモンって。ガンダムやアキラやドラゴンボールがいくら海外で人気といっても、それはいい歳こいてレディプレイヤーワンに大喜びするような一部のオタク兄貴たちがオヤジ文化として嗜んでる程度であって、パンピーにまで認知されてやしない。
一方、ピカチュウは現在進行形で世界中の子供たちのスター。気が付けば彼を中心に独自の巨大なポケモンユニバースが築かれていた。これは、実はとてつもなくすごいことなんですよ。