MasaichiYaguchi

志乃ちゃんは自分の名前が言えないのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.9
押見修造さんの同名コミックを実写映画化した本作は音楽を題材とした青春物ではあるが、この手の作品に有り勝ちな予定調和や綺麗事を排除して、ある意味、心に刺さるようなストーリーを展開する。
本作の印象的なタイトルは、ヒロイン・大島志乃は自分の名前さえ言えない程コミュニュケーション障害であることを意味している。
自らのコンプレックスで周囲から孤立していた志乃だったが、ある切っ掛けでミュージシャン志望の岡崎加代と出会い、少しずつ友情を紡いでいく。
実は加代も本人にとって〝致命的〟なコンプレックスを抱えていて、志乃がその部分を恰も補うかのような存在になっていく。
そして彼女らは友情の〝証し〟のように文化祭でのデュオ公演を目指していく。
原作とは設定を変えて陽光煌めく海辺の町を舞台にしたここまでの展開は、2人の青春がキラキラと輝いて高揚感を覚える。
そんな〝蜜月関係〟にある彼女らだが、本作に登場する別のコンプレックスを抱えた人物が2人の間に割り込み、思わぬ波乱を引き起こしていく。
繊細でエモーショナルな2人の女の子、志乃と加代を演じる南沙良さんと蒔田彩珠さんが鮮烈な印象を残す。
特に志乃の感情を全身全霊で表現する南沙良さんの演技には圧倒され、終盤の独白シーンには心揺さぶられる。
多感な10代において多かれ少なかれコンプレックスのない人はいない。
だから、そのことで悶々としたり、葛藤して傷つきながら、もがきながら過ごすことは誰でもあると思う。
この作品は、傷つきたくないが為に自分の殻に籠ったヒロインが、自分とは違う人との出会いや触れ合いによって殻から外へ踏み出した勇気と、そこにある一条の希望を描き出している。