今作は「欅坂46」のメンバーである「平手友梨奈」が"映画初主演"を務める、"漫画を原作"とした実写化作品だ。
人気アイドルが映画初主演で漫画が原作とは、これまでの経験則からするとなんとも"地雷臭"が漂う。
控えめに言って"不安要素のオンパレード"だ。
だが、今回実際に観た感想としては、鮎喰響の無表情のまま激情を曝けだしそれを貫き通す孤高の存在感を、平手友梨奈は忠実に再現出来ていたと思う。
原作未読の方には少々伝わりにくいだろうが、あのキャラクターは演じるのが非常に難しいだろう。
"正論"と"純真"を盾にそれを誰彼構わず振りかざし、確固たる己を力業一つで押し通していく"サイコパス"ぶりは、漫画の中の世界観であっても異質であり、それを実写に落とし込むとなると、下手をすればとても心地が悪い作品になってしまっていただろう。
だが、この作品はそんな平手の好演を筆頭に「月川監督」の取捨選択の妙や構成力もあり、全体的にまとまりよく仕上げられていた。
ただでさえ原作では、登場するキャラが
[響を取り巻く面々]
[出版社の面々]
[審査員の面々]
[芥川ノミネート作家の面々]
[響の素性を探るマスコミ連中]
と、カテゴリーに分けても多岐にわたり、その中で更に細分化され、それぞれの思惑がそれぞれの視点を通して展開する構成で、これは長期連載が可能な漫画作品として見ても珍しい程の濃密度であり、そんな作品を2時間にも満たない映像に全て落とし込むにはとても無理がある。
なので、今作に至っては、「響」「リカ」「花井」の3人(おまけで「小栗旬」演じる「山本」)にのみスポットライトが絞られている。
その影響で、端役は進行上響と絡む必然性のある印象深いところだけかいつまんで脚色されていたり、それ以外は登場すらしないキャラも複数いるので、物足りなさこそ勿論否定は出来なかった。
だが、そのマイナス面を「柳楽優弥」や小栗旬など、存在感のある実力派俳優で最大限カバーしたのは、安直にも思えたがやはり絶大な効力を発揮しており、小栗の絶望感漂う表情や、柳楽の喫煙所での一言は、彼らだからこそ醸し出せる説得力が確かに感じられた。
強いて言うなら、山本春平は作中で唯一にして最も共感できるパーソンだった為、その後に関しては最後にもう少しだけ、エンドロール後にでもいいから触れて欲しかった。
ちなみに、原作漫画は既に数々の賞を受賞しており、主演の平手も先日の「日本アカデミー賞」に堂々ノミネートされた。
文学の最高峰を舞台に繰り広げられるこの物語は、作品自体も様々な華々しい評価に彩られている。
だがその反面、原作は各賞を総ナメする漫画でありながら"絵が下手"だ。
平手は、カリスマ性のある人気絶頂のアイドルでありながら、"人前で自分を表現し曝け出すのが苦手"だ。
響は、文学史に残る圧倒的天才だが、"自己肯定感の強い暴力的な欠陥人間"だ。
この作品を形作るにあたり欠かすことの出来ない3つの要素には、それぞれの「圧倒的な才能」とは裏腹に「圧倒的な欠点」が表裏一体となって存在している。
そんな不完全な危うさがあるからこそ、それぞれが放つ言葉や文章、表現力はそれらを補って余りある程に、触れたものの胸に深く突き刺ささっているのかもしれない。
だからこそ、響が巻き起こす数々の異常な行動にも、最後はみんな説き伏せられてしまうのだと思う。