◆Story
小さい木が立つ庭のある家に住む、4歳で甘えん坊のくんちゃんは、生まれたばかりの妹に対する両親の様子に困惑していた。ある日、くんちゃんはセーラー服姿の女の子と出会う。彼女は、未来からやってきた自分の妹で、恋愛を成就させるために、片付けられていない雛祭りの飾りを片付けるよう父親に説得してほしいと訴える。
◆Infomation
『サマーウォーズ』『バケモノの子』などの細田守が監督を務めたアニメーション。小さな妹への両親の愛情に戸惑う男の子と、未来からやってきた妹との不思議な体験をつづる。企画・制作は、細田監督らが設立したアニメーションスタジオ「スタジオ地図」が担当し、細田監督作に携わってきたスタッフが集結している。声の出演は、上白石萌歌、黒木華、星野源、役所広司ら。
◆Review
『バケモノの子』よりは作家性が現れていて表現しようとしていることが明確でわかるのだが、映画としての完成度や物語の破綻ぷりが凄まじい一本。
これまでずっと描き続けてきた、現実で成長をすることができなかった主人公が、現実とは異なる環境、あるいは別の世界に触れることで現実世界で成長をきたすという基本構造を、本作では幼児が親離れをし、妹を自分と対等な存在ではなく、保護すべき妹として自覚するという不可逆な成長に当て嵌めている。
これまでVR世界や異世界として描いてきた「現実での成長を促進させるための現実とは異なる世界」を、本作では「幼児が脳内で行う妄想」にほとんど近い形で表現しており、このコンセプトだけ捉えると物語の納得度が非常に高いように思える。
妄想に思えるというのも、本作での主人公のくんちゃんが対面する世界は何か定型のものがあるわけではなく、くんちゃんの記憶によって構成されるドラッギーな映像演出に頼っており、物語としては完全に破綻してしまっているからだ。飼っている犬が擬人化したと思えば、未来のミライ(妹)がタイムスリップしてきたりと、起きる事象に法則性もない。ジブリ作品であれば『崖の上のポニョ』に表現は近いと言えるだろうか。行われていることは『千と千尋の神隠し』にも近いように思う。
しかしこれらが幼児の脳内で行われる妄想に過ぎないのであれば、子供の成長としてここまで確信をついた表現もないような気がするのだ。
ところが、ラストスパートではくんちゃんがなぜこういった映像演出を見せられていたかについては、ある理由があったことが明かされてしまう。
その種明かしをされることで、最後の最後でこれまで見てきたものは単にくんちゃんの妄想ではなかったこととなるわけだ。そうなると、くんちゃんが成長の過程で、妹や先祖、さらには未来の自分自身を救ってゆく物語を描こうとしていたことがわかってくるのだが、先に言った通りに物語が映像演出だけに頼っていたために、テーマがブレているようにも思えるし全体を通してなんの物語だったのかはっきりとわからないのだ。
種明かし自体も不明瞭だ。家に植えられている木が重要だそうなのだが、黒幕が木である必然性もなければ、劇中でそれまでに木が触れられていたこともない。
ちなみに、エピソード自体も「恋愛成就のために雛飾りを片付けてほしい」など、行われていること自体が素朴すぎて興味が湧かないという問題も大いにある。
作画の完成度は相変わらず高いために、やはり脚本が向いていないことがより目立ってしまう。ただし時たま挟まれるCGの質は低く、周りの絵に対して浮いていると感じることは多々あった。
途中までは自分にかなり刺さるのではと思いながら観ていたし、傑作にはなりえたと思うため、その未成熟さにはがっかりしてしまった。