しの

未来のミライのしののレビュー・感想・評価

未来のミライ(2018年製作の映画)
3.4
細田作品史上最も「考えるな、感じろ」な作品。4歳児の目線で描かれるのであまり理屈を求めるべき作りではなく、そういう意味で筋は通っている。しかし、ファンタジー要素がエンタメ的に機能せず、作品としても新しい試みを感じない。短編の私小説という感じで付加価値は少ない。

まず良かったところ。広大なファンタジーを扱える人ではないと思っていたので、ある一家の庭の中で完結する世界にしたのは英断だと思う。オムニバス形式の語り方も、子どもが1日1日を生きている感じが出てよかった。やはり主人公が4歳児だからこそ成り立つ構成であり、そのぶん彼の描写には気合が入っていた。何にでも興味を持ったり、エネルギッシュに感情を表現したり、かと思えばドキッとするようなことを言ったり……。こういう観察眼はすごいと思う。

しかし、そういうこじんまりしたファンタジーや、オムニバス形式で語られるエピソードが、主人公の成長、ひいては「生命の大きな循環」を感じさせるに足るカタルシスに繋がらない。もちろん、『バケモノの子』のように致命的に成立していない感じはないし、家族描写もそこまで拒絶反応が出るものではない。ただ、今回は純粋にストーリーテラーとしての不信感が強まった。私小説的なリアリズム、それをアニメーションに変換する洞察力は優れているが、それだけでは限界だろう。

何よりマズいと思うのは、未来ちゃんが単なるメンターにしかなっていない点。時空や世代を超える家族とのふれあいが主人公のアイデンティティ確立に繋がり、ようやく「兄」という家族の一員になっていく流れなのに、それが有機的に結びつかない。テーマも全てセリフで説明させてしまう。アイデアは物凄く魅力的なのに……。

総括。4歳児視点ならではのこじんまりした話にしたお陰で致命的な欠点はない。しかし、特筆すべき点もない。 4歳児主人公や時空を超えた家族との交流という要素以外に真新しさはなく、それらの要素も活かしきれていない。ストーリーテリングが問題。細田作品のミライが心配になる一作であった。

映画ライターのヒナタカさんと収録した感想ラジオ
https://www.youtube.com/watch?v=_THsNPgOwuo


(2018.7.23追記)
「細田作品」ひいては「家族映画」について思うところがあったので追記しておく。

細田作品とか、最近だと『リメンバー・ミー』とかへの(一部の)人々の反応を見ると、この時代に家族を描くのって非常に難しいなと感じる。『万引き家族』がヒットしたことに色々な意味を感じてしまう。

細田作品も『リメンバー・ミー』も、無批判的に家族を礼賛してるわけではないと思う。むしろ真逆というか、家族が元々他者同士であるという冷徹な視線や、あるいは文化的な相対化を介してようやく家族が描けているとすら思うのだが、何か根本的な不信がある人もいる気がする。多様といえば多様だ。

それはそれで良いのだが、その多様さがおかしな方向へ働くと怖い。例えば東京駅でのアレコレに対する、「じゃあ家族が居ない人はどうするの?」というツッコミだが、これは中華料理屋で「カレーが好きな人はどうするの?」と聞くのと一緒で、要はウマが合わなかったで済む話だ。それなのに、そこから発展して本作を「プロパガンダだ!」などとレッテルを貼って喧伝するのはどうかと思う。

細田監督は「万人向けファミリー映画作家」みたいに売られているが、実際は家族というものを「他者同士が契約して共生する場」として捉える冷めた視線があり、それ故に生じる歪さを必ず描いてくる。その上で、なおその場を保とうとする人々のエネルギーに活路を見出す。この生々しさと真っ直ぐさが特徴だ。

思うに、この「生々しさと真っ直ぐさ」の同居こそが賛否両論を生む要因の一つなんだろう。つまり、描かれる家族の歪さ・面倒くささ・闇が、人々の共通体験に根差したリアルなものでありながら、それをアニメーションの力・ファンタジーの力でこの上なく真っ直ぐに乗り越えさせる。そこに乗れるかどうか。

そういう意味でも、やはり細田監督はミニマムな物語を紡ぐのが適していると思うし、実際『未来のミライ』はこれまでの細田作品に見られたような根本的な部分での拒絶反応みたいなものは引き起こし辛い思う。しかし、かといって大絶賛もないと思うので、平均点では歴代ワーストになる気がする。演出や展開の一つ一つを色々深読みしてみても面白いとは思うが、そもそも4歳児視点に基づいた「考えるな、感じろ」な内容なのに、後からうんうん唸って考察しないと意味を把握できないというのは個人的にどうかと思うのだ。

自分は細田監督の描こうとしてるものは好きなので、演出家に戻れなんて言いたくない。とりあえず新海監督みたいに一から脚本術を勉強し直してほしいとは思うが…。
しの

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