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15時17分、パリ行きのRenのレビュー・感想・評価

15時17分、パリ行き(2018年製作の映画)
3.5
【タリス銃乱射事件】2015年8月21日、アムステルダム発パリ行の高速鉄道タリス車内で男が小銃を発砲、一人の乗客が被弾し重症を負った。犯人は情報機関にもマークされていたイスラム過激派。しかし乗客4名が男を取り押さえ、制圧に成功。彼らにはフランスから最高位勲章が与えられた。
(Wikipediaより)

当事者本人による再現映画。
劇中に分からない点は一つも無い。だけど「で、これは何の映画だっけ?」となることは請け合いのヘンすぎる映画。
社会派問題提起の種になりそうなテロリスト側の背景を、そんなもん要らんと切り落とし、ただただ青年たちが英雄となった事件の片面のみを照らす。米国讃歌はもういいよクリントおじいちゃんと肩を叩きたくなる気持ちも分かるけど、個人的にはそれ以上に88歳の巨匠がこんなヘンな実験をしたという事実が面白かった。

話は旅行中の男3人組の少年期から始まり、勲章授与で終わる。彼らの小学生時代なんて全く事件とは関係無いし、旅行シーンに関してはそれ以上にマジでどうでもいい。ラスト20分のテロシーンだけパキッと決まっていて、それ以外の時間はだらんと弛んでいる。
よく言う「何を見せられてるんだろう」なのだけど、最後まで観たら納得はできた。

「事件に関わった本人(演技素人)が本人役を演じている」という独特の演出が、今作の面白さの全てと言っていい。
最後の勲章授与式のシーンでは、実際の映像がカットバックのように差し込まれる。これ自体は実話ものにありがちな演出だけど、今作の特殊なキャスティングによって「"フィクションパート" と "実際の映像" の人物の顔が全く同じ」という奇妙すぎる現象が起こる。
この瞬間、今まで再現VTR(フィクション)だと思って観ていた本編が単なる再現VTRではなくなる。現実とフィクションがシームレスに混ざった授与式のシーンのおかげで、全部が半現実のように見えてくる。

今作は「英雄たちの活躍を知ったイーストウッドが彼らの小学生時代にタイムスリップし、テロリスト抑圧までカメラを回し続けたドキュメンタリー」だ。そう思うと結構な発明をした映画だと思う。時をかけるイーストウッド。
普通の史実・歴史映画だったらそうは思えない。役者が演じる以上それは再現映像であり「今 作った感」を脱臭しきれないから。

今作を面白くなかったと言う人に「そんなわけねーだろ!」と言う気は全く無い。イーストウッド作品の中でも低評価なのは至極当然ではあると思う。
ただ自分は脚本の布石や回収など小難しい話よりもっとバカに、イーストウッド超能力持ってる説を心の中で唱えながら一人でニヤニヤ観た。

その他、
○ 撃たれた人間が話したり動いたりせずかと言って即死もせず、ただ苦悶し続けるシーン。ここがしんどい。因みにこの撃たれた人も事件の被害当事者だし、隣で慰める妻も本人が演じている。
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