ミヤザキタケル

15時17分、パリ行きのミヤザキタケルのレビュー・感想・評価

15時17分、パリ行き(2018年製作の映画)
4.2
15時17分、パリ行き
3/1公開ですが 一足早くレビュー。

2015年8月21日に起きた「タリス銃乱射事件」を描いた実話ベースの物語。
554人の乗客を乗せたアステルダム発パリ行きの高速列車内に、突如銃で武装したイスラム過激派の男が現れる。
偶然乗り合わせた幼馴染でもある3人の若者達は、迷うことなく男に立ち向かうのであった。
3人の若者達が歩んできた半生と実際に起きた事件の細部を通し、為すべきと信じたことを貫く勇気を描いた作品だ。

御歳87歳の大ベテラン クリント・イーストウッド
老いと共に新しいことにチャレンジするのが困難になっていくのが一般的だが、彼は誰もが想像し得なかった新たなチャレンジをやってのける
実話ベースの作品を描くにあたり、実際に事件に直面した当人達を役者として起用するという全く新たな手法を用いてこの名作を生み出した
老いることは誰にも止められないが、クリント・イーストウッドの進化もまた誰にも止められない。

序盤において、若者3人の少年時代が描かれる
その姿はお世辞にも褒められたものではないし、人間的に優れていたとも言い難い
むしろ、数多くの問題を抱えて生きていた
そんな彼らの過去を通して描こうとしていたことは2つ

彼らは一般人であるということ
決して器用ではなく、苦しくて キツくて やんなっちゃうことばかりある現実を生きている
あなたやぼくと同じ、ごく普通の人間なのだと分からせてくれる
そしてもう一つ
良い職業に就いたり夢を叶えるのには多くの条件を満たさなければならないけれど、正しいことを為すのに地位も金も見てくれも関係無い
どんな人間であっても、正しいことは行える
とても当たり前のことだけど、当たり前過ぎて見落としがちなことをしっかりと示してくれていた。

酒を飲み過ぎて二日酔い
魅力的な異性にはドキドキしちゃう
SNS映えする写真を撮ることで頭がいっぱい
休暇は旅行に出かけたい
基本的には隣り合わせの存在に感じられる彼らだが、唯一違いがあったとすれば己の為すべきことを自覚していたか否か

何もテロに直面した際に、真っ向から立ち向かえと言っているわけじゃない
訓練を受けたり武術の心得がある者でなければ、返り討ちに遭い余計な被害や悲しみを増やしかねない
奇跡的に状況を打破できて一躍ヒーローになれることもあり得るが、大切なのはそこじゃない
人にはそれぞれ自分にしかできないことがある
それぞれに見合った役目というものがある
その役目を果たせているのかどうか
問われていたのはそこである。

こと日本においては、「テロ」と聞いてもピンとこないかもしれない
極端な話、テロじゃなくたっていい
親孝行でも、長期休みにおける山積みの宿題でも、早朝のゴミ出しでも構わない
あなたにもぼくにもそれをやれるだけの力が備わっているのに、しんどいから 面倒だから まだ先でも平気だからとついつい先延ばしにしてしまう

目の前を歩く人がハンカチを落とした時、道でうずくまっている人がいた時、理不尽な思いをして苦しんでいる人がいた時、あなたはどうしているだろう
いつだって手を差し伸べることができているのなら問題無いが、時に目を瞑り 見て見ぬふりをしてしまうことだってあると思う
そんなことを続けていく内に、何が正しいのかを見分けられなくなっていく
その積み重ねが判断力を鈍らせ、瞬時の選択を迫られた際には一手もニ手も出遅れる
状況が状況ならば、そのタイムラグが命取りにさえなってしまう。

人の心は大きな樹木
光を浴びれば浴びる程に太く逞しい枝を伸ばし、大きく立派な実を結ぶ
ずっと日陰にいたのなら、光を求めてか細い枝が伸びていき、小さな実しか結ばない
3人はどんな状況においても、「友情」「夢」「使命」という名の光を浴びて太く逞しい枝を育んできた
そこには多くの実が成り、欲する者が現れた際には万有引力の導きによって自然と分け与えられる

どんな強風にも耐え抜く立派な樹木を見せつけられ、観客は己の心に問うことになるだろう
自分のやるべきこと・為すべきことに向き合えているのかどうか
いざという時、持てる力の全てを目的のために注ぎ込めるのかどうか
日常生活において光を浴びぬ生き方をしていると、心は次第に枯れていく
ぼく達は光を求めることをやめてはならない。

真実はいつだって一つたけど、受け取り方は様々
この事件はテロを起こす人間の愚かしさだけではなく、愚かしさなど容易く飛び越えてしまう人間の気高さだって感じさせてくれる
クリント・イーストウッドもまた、映画監督としてやるべきこと・為すべきだと信じたことをやっていた
自分のやるべきこと・為すべきことを見つけられたのならば、今やらなければ意味が無い
一人一人がそうできたのなら、自ずと世界は変わっていく
綺麗事かもしれないが、彼らの勇気が この作品こそがその証

己の立ち向かうべきことに向き合う責任と覚悟
一人一人が自覚すべき問題に気付かせてくれる力強い作品でした。

ぜひ劇場でご覧ください。

青春★★★
恋 ★
エロ★
サスペンス★★★★
ファンタジー★★
総合評価:A