ナガノヤスユ記

15時17分、パリ行きのナガノヤスユ記のレビュー・感想・評価

15時17分、パリ行き(2018年製作の映画)
4.4
アフガンテロ戦争の終結を活写し米国中心に議論を巻き起こしたキャサリン・ビグロー『ゼロ・ダーク・サーティ』も記憶に新しいけど、イーストウッドの描く対テロ闘争はこれだと。この突発的で偶発的な僅か数分間の戦いが、これからの戦争なのだと。
『グラン・トリノ』のラストで見事に過去の英雄たる自分を殺してみせたイーストウッドは、次の時代のヒーロー、人間のあるべき姿を映画の中に模索し続けているんだね。もはや作家としての死も厭わないダイブと言わざるをえない孤高の旅路の、2018年現在形がこれか…。
観光地でセルフィーとクラブ遊びに興じる落ちこぼれ(といったら失礼かもしれないが)軍人の不意の変容は、アンディ・ウォーホルよろしくまさに「誰でも15分で英雄になれる」といった様相。逆もまたしかり、誰でも15分でテロリストになれる。
敵対者はもはや異界の軍人じゃない。映画の中の二次元的な悪人でもない。旅先での一期一会や、15:16から15:17へと変わるデジタル表記のごとく、有機的に続いていたかに見えた時間の突然の断絶、敵はその狭間から現れる。
余りにもラディカルな事態の変容に僕は泣いた。これをどう受け止めればいいのだろう。誰がこれについていけるというのだろう。

薄々気づいていたけど、イーストウッドは僕なんかにも分かる映画を作る気なんてとうの昔に捨てたらしい。