茶一郎

15時17分、パリ行きの茶一郎のレビュー・感想・評価

15時17分、パリ行き(2018年製作の映画)
4.0
すっかり近作は実話の映画化、この所、映画版『ザ!世界仰天ニュース』ばかり手掛けている御歳87の巨匠クリント・イーストウッド最新作。ヒーロー映画が昨今の映画業界を騒がせる中、本作『15時17分、パリ行き』も、前々作『アメリカン・スナイパー』、前作『ハドソン川の奇跡』に引き続きイーストウッドによる「リアル・ヒーロー」についての映画でした。

 2015年、アムステルダム中央駅・15時17分発パリ行きの高速電車の車内で起きた無差別テロ事件を描いた本作。この作品がとても87歳の長老監督が撮ったと思えないほどに「実験的」なのは、その無差別テロ事件の犯人を取り押さえたアメリカの若者3人、そして被害者、事件に居合わせた当事者、犯人以外を実際の本人が演じているという点に尽きます。
 混乱するばかり、フィクションとドキュメンタリーの曖昧な境界線上を走る『15時17分、パリ行き』ですが、さらに奇妙な事にイーストウッド監督は、このヒーロー譚を通じて人の「運命」を描くのです。

 何せ事件は6分間、一瞬の出来事ですので、残りの上映時間90分ほどは若者ヒーロー3人の幼少期、青年期、そして事件が起こるパリ行きの高速電車に続くヨーロッパ旅行の様子を淡々と映していきます。そして、上述の奇妙な点は、彼らの幼少期の様子に事件の映像を挿入するカットフォワードする怪しい編集にありました。まるで幼少期から彼らが事件に導かれているような。彼らが通うスクールがキリスト教の学校ということもあり、若者の「私を平和の道具にしてください」という祈りに神が呼応し、若者たちが神に「召命」された者に見えるのが非常に奇妙です。
 劇中の印象的なセリフ「人生の大きな目的に導かれているような気がする」の通り、神の召命、運命に導かれる若者たち。人生の目的という大河に流される登場人物を描いたイーストウッドの過去作『ヒア・アフター』に通ずる、神の召命についての物語が本作です。

 『アメリカン・スナイパー』、『ハドソン川の奇跡』同様、ただ「行動」すべき時に「行動」した人物を、この『15時17分、パリ行き』でも讃えるイーストウッド。ヒーローになるには超能力などいらない、生まれ持った運命の目的に沿ってただ「行動」するべだ、と監督は「普通の人」だからこそ偉大なヒーローを物語にして語りました。
茶一郎

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