YukiSano

15時17分、パリ行きのYukiSanoのレビュー・感想・評価

15時17分、パリ行き(2018年製作の映画)
3.8
スクリーンの中とこちらの現実を繋ぐ点。凄い映画はそんな特異点を発生させて、こちらの次元に侵食してくる。

イーストウッドは、最近事実を映画化することで現実と虚構の境目を極限に薄くすることに挑戦し、また人々に境界線とは何なのか問い続けていたような気がする。

そして、ついにこの作品に到達した。
大巨匠が辿り着いたのは、何と当事者による再現映像。

アホか、となりそうな所を本人役で出た主人公3人の迫真の演技と、前半の緻密なジュブナイル的視点で、一つの大いなる運命を観客に理解させる。

あまりにアッサリした演出のため、また結末を知っているだけにハラハラしづらいというのはあった。

だが、時が経つと完全再現された映像のため、まるで自分の思い出のように感じていることに気付く。実際どうだったのか、を考えることなく、まさに事実という記憶となって自分の中にある。

それは、まさに奇跡のような英雄が誕生した事実が、自分の中に真実として残ったということ。

この奇妙な感覚こそ、イーストウッドが観客に植え込みたかったことなのか…

この世界には、確かに運命に導かれて、奇跡のようなことが起きている。それはスクリーンの中ではなく、我々のいる場所から地続きの所にある。あの英雄たちは、今この世界に私たちと共に生きているのだ。

ならば我々も、きっと何かに導かれ、意味を成しているのだとイーストウッドは教えてくれている。

それは、信じる価値があることだ。
YukiSano

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