曇天

15時17分、パリ行きの曇天のレビュー・感想・評価

15時17分、パリ行き(2018年製作の映画)
4.2
実録映画路線が続いているイーストウッド監督だが、またイーストウッドらしさの際立つ一本が加わった。しかも今回は何だか希望で満ち満ちている。

『アメリカンスナイパー』のようにある人物の生い立ちを語って、その要素要素が現在の姿に影響しているように描く手法と、『ハドソン川の奇跡』のようなある事件の一瞬一瞬を紐解いていく手法の両方使ってて、にもかかわらずちょっと食い足りないくらいシンプルに終幕する。

実質主役のスペンサー・ストーンに関しては特に、悪ガキだったことを改心して人を助ける人間になりたいと願って、軍に入るが成績が悪くて衛生兵に落第したり、柔術の訓練を受けていたりと全てあの乱射事件に繋がっていく。パリへの旅行に関する道中の人々の助言だとか乗っている車両だとか、愉快なくらいピースが上手くはまってくれて、伏線回収が気持ちいい。

よくできた偶然にはどうしても運命って言葉を使いたくなるけど、そこは単に確率の問題。彼らが運命に導かれたと言える部分もあるけど、犠牲を防げた本当の理由はスペンサーがそれまでにしてきた行いが正しかったから。彼が「人命救助に必要な技術」を身に着けてきたからだ。そしてもちろん行動に移したから。スペンサーの念願達成が、あの乗客が一人一人降りてくるシーンに表れていて涙腺突かれた。

イーストウッドはやっぱり、過去と未来が因果で繋がっていることをはっきり意識して題材も選んでる気がして、自分もそこが監督の(直近3作の)好きな所だな。重大な出来事は、過去に原因があるとはっきり言う。まぁ主に、専ら『アメリカン・スナイパー』の事ですが…、カイルの死の原因は戦争に関わり過ぎたことだと強調している。でも今回スペンサーは同じ兵隊でも、救助という形にこだわった事が功を奏したと言っていて、軍人のポジティブな側面を描いてて嬉しい転換。

もちろんアメリカ人の奇跡的・英雄的行為を賞賛して国民元気づけたいって意味でも、監督作は十分素晴らしい。ただそこでは終わらない味わいがあるのよね。原作の伝記ではなんと犯人側の生い立ちも描かれているとか…天国と地獄だけど、よ読みたい。
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