Inagaquilala

ロンドン、人生はじめますのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

ロンドン、人生はじめます(2017年製作の映画)
3.4
邦題には「ロンドン」と入っているのだが、原題は「Hampstead」(ハムステッド)。ハムステッドは、ロンドン北部にある広大な公園ハムステッド・ヒースを擁する、緑の多い高級住宅地だ。物語はほとんど、このハムステッド地区で進行するので、このミスリードな邦題にはやや唖然とする。主人公はこのハムステッドの高級マンションに暮らす最近夫を亡くしたばかりの女性エミリー。夫に愛人がいたこと、そして多額の借金を残したいたことも発覚して、やや気持ちが塞ぎ気味だ。ある日、彼女は窓から近くのハムステッド・ヒースを眺めていると、その森のなかにある池で水浴をしている男性を見かける。男性は、森に小屋を立て住みついていたホームレスの老人だった。

あまりにもスノッブなマンションの住人たちに少し辟易していたエミリーは、このホームレスの男性ドナルドの暮らしに興味を持ち、彼の自由でシンプルな生活に惹かれていく。一方、マンションの隣人から会計士の男性を紹介され、エミリーは夫の突然の死で降りかかってきた借金問題の相談に乗ってもらうが、男性はどうやら彼女に気があるようで、困惑は隠せないものに。高級マンションと森のなかに建てられた掘っ立て小屋の対比が、おそらくこの作品の肝といってもよい。ホームレスの男性は17年前から、森のなかに無断で小屋を建てて住みついていたのだが、イギリスではどうやら、何年か住み着いてしまえば、なんらかの専有権があるらしく、後半はこの小屋をめぐっての住民との法廷闘争になる。

実際にホームレスの男性が一夜にして資産家になったという実話をもとにしてつくられた作品なのだが、ダイアン・キートン演じる初老の女性エミリーとホームレスの男性の組み合わせは、かなりミスマッチにも感じる。ホームレスの男性の衣装がかなりくたびれているのに、エミリーのファッションはつねに整っており、意図的に対比させているのかとも思うのだが、かなり不釣り合いにも感じてしまう。その趣は「美女と野獣」という感じで、いかにも絵空事の恋愛コメディという感じは否めない。ホームレスの男性のバックストーリーや全体の物語にもうひとひねりあれば、そのあたりは解消されるのだろうが。それにしても70歳を超えていまだ結婚暦もなく、妖しい魅力を放つダイアン・キートンはやはりある意味凄い。
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