きよぼん

人魚の眠る家のきよぼんのレビュー・感想・評価

人魚の眠る家(2018年製作の映画)
3.5
「充分に発達した科学技術は魔法と見分けが付かない」。

SF作家アーサー・C・クラークの言葉のように、事故により脳死状態となった我が子を、最新科学という魔法によって体をうごかすという、希望にすがる物語。

映画の構成としては母親役の篠原涼子が、希望から狂気へと変わっていく姿を描いています。

この母親の姿をみて、みなさんはどう感じられたでしょうか?

自分は最初から最後まで狂気しか感じなかったんですね。しかし、「こんなの狂気だよ」と断じることも心苦しい。当人にいうことなんてとてもできない。当事者でないと結論を出せない世界だからです。その距離感がなんとも、もどかしく感じられました。

当事者はどう判断すればいいのか。これは魔法ではなく科学であるということ。禍々しい邪悪な力を借りてる魔法ではなく、誰にでも平等に分け与えられる、科学という力が使われている奇跡。

科学は人を平等に扱う。だから当事者は、自分で考え、自分で結論を出さなきゃならない。誰にでも平等に、そして多様性を認める社会だからこそ「あなたの好きにすればいい」というのが、現代社会です。

最終的に娘の命をどうするかについて、ひとつの結論を夫婦は出します。しかしこんな大きな決断を、宗教でも倫理でもなく、自分の価値判断にゆだねられるというのは…そこがなんとも残酷でした。

脳死状態になった我が子を連れ出す場面、電気信号によって体を動かすところは映像としてのインパクトがあります。机上の話になってしまいがちな脳死という問題に、言葉を越えたひとつのイメージを提供している映画といえるでしょう。
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