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1987、ある闘いの真実のinotomoのレビュー・感想・評価

1987、ある闘いの真実(2017年製作の映画)
4.4
1987年、軍事政権下の韓国。対共の組織として、北朝鮮分子や民主化運動に携わる人達を捕え取り調べをしていた南営洞警察で、学生運動家の青年が、取り調べ中に死亡する。警察による取り調べ中の拷問が死亡の原因だった。南営洞警察所長のパク所長始め、警察上層部は、その事実を隠蔽し、死亡原因は心臓麻痺と発表。しかし検察側のチェ検事らの尽力により、司法解剖が行われ、死亡原因は拷問による窒息死であることがわかる。事実を嗅ぎつけたマスコミの報道もあり、その事実は明かされることになるが、やがてその事件が国と市民の衝突をさらにエスカレートさせ、大きな波となる。1987年に、韓国で実際に起きた事件をもとに作られた作品。

まず、国と一般市民がこんな風にぶつかり合う出来事が、たった30年ほど前に隣の国で起こっていたという事に驚く。ちょうどソウルオリンピックが開催される少し前で、私自身の記憶も鮮明に残っている頃だ。「タクシー運転手」と合わせて見ると更に感じるものがあると思うけど、これらの一連の出来事が韓国の人々と歴史に大きな爪痕を残しているのだと、改めて感じる。そしてドキュメンタリータッチのみに終始せず、エンターテインメントとして見応えある作品に仕上がっているところが凄い。事件の始まりを一気に見せていく、冒頭からの数十分の緊張感や編集のテンポが素晴らしく、難しいテーマなのにぐいぐい引き込まれる。印象的なショットがいくつもある、カメラワークもなかなか。

オールスターキャストの群像劇であることが、見所のひとつになっているんだけど、俳優達はわずかな出番のみの人でも、名の知られてる俳優がキャスティングされていて、みな好演。パク所長を演じたキム・ユンソクは体型から役を作りこんでいて、ギラギラしたオーラを爆発。パク所長を始め、警察の人達はまるでヤクザみたいなんだけど、なぜパク所長がそこまで対共活動に入れ込むのか、脱北者であるパク所長の背景もきちんと描かれており、パク所長のキャラクターに説得力を加えている。チェ検事を演じたハ・ジョンウのやさぐれ感と熱血具合のバランスも良かった。パク所長とチェ検事の対峙する場面の面白いこと!30歳越えているのに、爽やかに大学生を演じたカン・ドンウォンも良かった。彼は軍の催涙弾に当たって死亡した実在の学生運動家を演じていたのだけど、着ている服装から新聞記事になった写真の様子まで、当時の様子の再現具合が見事だった。拷問した警察達の中で、生贄として先に逮捕された2人が収監される刑務所の、ある秘密を抱える刑務官を演じたユ・ヘジンは大好きな俳優。彼はバラエティ番組でその不細工さをネタにされるくらいなんだけど、その個性をうまくストーリーに絡ませているのが面白かった。彼の人の良さが活かされたキャラクターで、その演技もとても良かった。

映画を見て感じたのは、それぞれの人達が、自分なりの正義で行動している、しかしそれが人との衝突を産み、そして正義という名のもとの行動であっても、ちょっと道を踏み外すと悪に変わる、それは紙一重なんだなということ。同じような事が、自分の身の周りや自分の国でも起こっているんだろうなと、感じた。最近公開された「工作」も史実をもとに作られた韓国映画とのことで、俄然見たくなった。この作品を未見の方は、ぜひ「タクシー運転手」と合わせて見て欲しい。
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