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1987、ある闘いの真実のellieのレビュー・感想・評価

1987、ある闘いの真実(2017年製作の映画)
4.0
「タクシー運転手」から7年経った韓国。
トーマス・クレッチマン演じるピーターが死に物狂いで持ち帰った衝撃の映像が世界に報道されるも、韓国国内ではほぼ知られぬまま独裁体制が更に悪化しつつあった1987年。無実の罪で不当逮捕され、拷問され死亡したソウル大学生の事件をきっかけに国を大きく揺るがすことになる6月民主抗争までを史実を元に描く。

一匹狼チェ検事長がかっこいい。彼の存在なくして、不審死した大学生が実は拷問により殺されたことが明るみに出ることはなかったであろう。学生運動を率いるイ(カン・ドンウォン)の正義感が、学生運動を毛嫌いするヨニ(キム・テリ)の視点が交わるお陰で中立性を保ち、物語に奥行きと説得力を与えている。
また、限りなく悪の側にいると思われた公安のパク所長ですら、実は朝鮮戦争という悲惨な歴史のなかで翻弄された過去を持ち、人がいかに国という怪物に翻弄される弱い存在であるのかを痛感させられ、なんともいえない気持ちになった。

ヨニの叔父に危険が迫り、それまで長く民主化運動に懐疑的だったヨニが立ち上がりおすおずと拳を突きだすシーンは胸が熱くなる。

民主主義では当然ように約束されている自由、人間の命、人権を等しく守ることが、そうではない世界ではいかに難しく夢のような話かを、よく見ておかねばならない、と思う。

最後の血だらけのスニーカーのシーンは、6月抗争で実際に命を落とした学生闘争のリーダーの姿を偶然撮影した記者の現場写真がヒントになっているという。

韓国の受けた歴史の深い傷と、自らの手で失くしたものを長い闘いの末に勝ち取った人々の真実の重さに、深い敬意を評したい。
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