近本光司

マリヤのお雪の近本光司のレビュー・感想・評価

マリヤのお雪(1935年製作の映画)
2.5
はじめに日本地図が示され、カメラはぐぐっと九州地方のほうへ移っていく。ショットが切り替わり、砲撃を受けている夜道。時代背景の説明はそれでおしまい。本編のなかの科白でかろうじて西南戦争のことだと理解したのだが、公開当時の観客は、あの冒頭の二つのショットだけでそれを了解したのだろう。作品本編とはあまり関係がないが、まずはそのことにつよく印象づけられた。

 西南戦争の火の手に追われる酌婦の二人組と役所勤めの高貴な一家の逃避行。酌婦のお雪は、砲撃の音が鳴り響くなか、死のうったって寿命があれば助かるし、生きようと思ったってなけりゃそれまでさ、と達観した様子。それでもに鼻持ちならないブルジョワ一行からの差別もかえりみずに善行を施してゆく。かくして江戸の兵隊さんとのあいだに芽生えた恋ごころ。ざんねんなことにプリントの状態が悪く、あまりはっきりと見えないのだが、山田五十鈴の役柄に説得力が欠けていた印象。それがために作品全体に締まりがない。