マクガフィン

ダリダ~あまい囁き~のマクガフィンのレビュー・感想・評価

ダリダ~あまい囁き~(2016年製作の映画)
3.8
壮大な喝采や名声の対価として、人としての均衡が崩れていく人生をダリダの曲と共に淡々と描かれる。エキゾチックな美貌と歌声や、曲のテイストや歌詞の全てが融合したかのような壮絶な生涯に興味が尽きない。ダリダの深層は決して上手く描かれていないが背景音楽が効果的で、説明的でない行間の奥深さは相性抜群に。

意図しない先天的なファム・ファタールで、愛した男たちが憑依されるかのように、次々と自殺を遂げる悲劇は、美貌と歌唱力だけではなくダリダの深層の闇に触れたからのようにも。ダリダの美貌・人気・愛・孤独を受け入れる男たちのキャパが圧倒的に足りなく、どんどん溢れるようで切ない。
男の嫉妬から、あからさまな歌唱力の違いがあるのに、デュエットして愛の同化を確認する独りよがりのシーンも効果的に。

別れや失恋に傷つきながらも、積み重なった不幸や闇が内面から発せられる情念のようにも。それと拮抗するかのようにダリダのステージ上でどんどん輝いていく模様は美しいが、因果のように切ない。

「ダリダ」と「ヨランダ」の狭間で葛藤し、ステージ上の妖艶で凛とした佇まいと、私生活での脆さの対比。一般的な幸せな家庭を切望しながらも、喝采を浴びる歌でしか生きる希望を見い出すことができなかったことは、ダリダの業なのか。本当の幸せはステージ上でしかなくなり、「歌」と「生」が結合していく模様は、現実と虚構の区別ができなくなるような悲劇に。

終盤の孤独と死に苛まれて、生命のキャパから溢れる模様は、宿命と言うにはあまりにも切なすぎる。

ビジネスに家族が係るとロクなことが起きないので、プロデューサーである弟のブルーノが破滅へのトリガーかと思いきや、時代を先取りしたり、ダリダの欲求を汲んだサポートが救いに。