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トム・オブ・フィンランドのkのレビュー・感想・評価

トム・オブ・フィンランド(2017年製作の映画)
5.0
人を殺めた手で、人を生かす。
消えない罪を消しゴムで消すことはせず、希望に満ちた理想を描き続けた彼自身の人生にフォーカスした、宝物のような映画。

冒頭、氷の上を男たちが走り回るシーンから始まる。
戦時下のフィンランドの雲は重い。

セリフのひとつ、佇まいのひとつ、その全てでトウコがいかに勇敢で善良で聡明かがわかる。
監督の、彼に対する敬意も容易にみてとれる。

そして何よりトウコは、求めていた。愛とセックスを。

ヴェリを見つめる瞳の圧倒的なこと。
キャロルのラストシーンを思い出す。
人は本当に求めている相手を見つめるとき、みんなあんな目をしているのだろうか。
あの引力は、特別に思えてならないけれど。

2人のラブロマンスだけの映画も観たいくらい、出逢うべくして出逢った運命のふたり、というオーラに包まれていた。
このオーラは本当に、なかなか目の当たりにすることは出来ない。

アメリカで成功を手に入れて、当時のフィンランドと比じゃないほどの明るいLAでは、自分が描いたような男たちにたくさん出会う。トムが安らいでいるような表情に見えて、とても印象的だった。
まるでみんなの父親のようにも思えた。(実際は誰かと寝たのかもしれないけど)
彼の恋人はヴェリで、理想はKake。それを誰かが揺るがすことは、出来ない。

フィンランドに帰って、ヴェリに君以上の人はいなかった的なことを伝えたときも、すごく切実だったし。
本物の愛にしか心が動かないからこそ、人の心を掴む作品を生み出すことが出来るのかもしれない。

彼が描くゲイは、みんな笑顔でセックスを楽しんでいる。現実でもそうなってほしいと生涯祈り続けたトム・オブ・フィンランドの作品は、今も、これからも、レザージャケットの光沢のように輝き続ける。
そして彼の祈りは、永遠に受け継がなければならない。現代のゲイコミュニティ(全てのセクシュアリティ、ジェンダーでの)においても彼のアートは重要な役割を果たす。

愛と希望を描き続ける強さが必要だ。綺麗事なんかじゃない。事実だ。


最後に、修正なしで上映出来るよう尽力してくださった配給会社の方に感謝します。
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