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赤い天使のryosukeのレビュー・感想・評価

赤い天使(1966年製作の映画)
3.9
薄暗い戦地の病院に白衣が映えるライティングとモノクロの画面構成と、陸軍病院の薄汚い壁、迫撃砲でボロボロになった部落など流石の大映美術が素晴らしい。増村作品は画面内に人物がたくさん詰め込まれて賑やかなことが多いが、戦場の病院という舞台ではそれは当然蠢く瀕死の兵士たちになる。安定して高水準な映像で安心して見られた。
若尾が寝ている間に裸にされるエピソードがあり、それ以後岡部軍医(芦田伸介)に好意を抱いていく筋書きは、結構レイプ神話っぽいジェンダー的な問題は感じるがまあしょうがないか。「一緒に死ぬ」というのは「卍」でもあったが、増村の好きな強烈な愛情表現なんだろうか。あと、本作に限らないが「死んだ父親(なり他の家族なり)に似ている」という理由で好意を持つみたいなのって実際にある心の動きなのかね。批判とかではなく疑問だが。
小隊長がしっかり台詞を言い終わってから唐突にコレラの腹痛を訴え始めるのはちょっと演出下手ではとは思った。まあそこぐらいだけど。
手足を生々しい効果音と共に切断していく手術シーンに目を背けそうになる。大量の手足が放り込まれた入れ物...。
折原一等兵(川津祐介)と外出するシーンが終わると、即座に引きのロングショットに繋がれ誰かが倒れている。飛び降り自殺か否かハッキリとは分からないカットに一瞬で移行し、観客に衝撃を与えるこの感覚は良いなあ。
岡部軍医が裸で目覚めた若尾に「手を出さんも同然だ」と言う時からもしや?と思っていたが、兵士に不能になるリスクのある手術をしなかったことを語るシーンで確信に変わった。
軍が手足を失った兵士を故郷に帰還させないようにしていたというのは、史実でもそういうことがあったんだろうか?
腹から暗号文が出てくる、生きたまま腹を捌かれた伝令兵や、穴の中にカメラを置き、こちらに向かって(劇中で兵士は物だと思えという台詞があるが、正にただの物体のように)降ってくる死体の数々など、やはり強烈。
軍服を着て真顔でふざける若尾。劇中唯一と言っても良い純粋に楽しげな会話が行われると、当然爆音が聞こえてくる。
キスマークの認識票を付けるシーンは、序盤で挿入された、山盛りになった死んだ兵士の認識票の画を思い出さざるを得ない。
ラストカット、岡部軍医の遺体には、やはり左胸に「認識票」が見えている。
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