スピンオフもさすがの緊張感!
アメリカ・カンザスの商業施設で自爆テロが発生し、多くの民間人が犠牲となる。アメリカ政府はこれをメキシコ麻薬カルテルの協力を得て密入国したテロリストの犯行と断定し、CIAのマット(ジョシュ・ブローリン)にカルテル殲滅を依頼。マットは麻薬カルテルに家族を殺害された過去を持つコロンビア人アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)をリクルートし、非政府部隊を組織。カルテル殲滅のためあらゆる作戦を展開していく。
前作ではエミリー・ブラント演じるFBI捜査官の視点から複雑な状況と、揺れ動く倫理観を主人公的没入観で見せてきたが、今作は良くも悪くも非常に客観的な見せ方をする作品だったように思う。
そのせいか状況が飲み込めない不安感や緊張感はそこまでではなかったものの、アメリカ・メキシコ国境での対麻薬カルテル戦争が如何に血で血を洗うものであるかはさすがの描き方だった。
世界の警察、世界一の大国アメリカにとって、他国からの攻撃は如何なる場合でも容認できない。そしてそれを武力で解決する。そんなアメリカは正義なのだろうか。
"攻撃者たちよ。真に恐ろしいものをお前たちに送ろう。アメリカ合衆国軍の圧倒的な武力だ"
メキシコ政府とのいざこざを嫌い、政府の感知しないところでの出来事として、CIAのマットに汚い仕事を依頼する国防長官。そして戦いのためなら手段を選ばず、白昼堂々とメキシコ国内でカルテルの弁護士を射殺し、カルテル首領の娘を誘拐するマットとアレハンドロ。そして不具合が起これば簡単に人の命を握り潰し、国の体裁を保とうとする国防庁高官。
何が正義で何が悪なのか。
悪と戦うためなら悪事に手を染めてもいいのか。
"娘を殺された父親なんて大勢いる。それが1人増えるだけ"
"誰の命令で汚い仕事をやっていると?"
ドツボにハマり続けるアメリカとメキシコの麻薬戦争は一筋縄の倫理観では片付かない。
前作で"お前は狼になれない"と言い放ったアレハンドロの人間味が垣間見えるつくりになっていたのはよかった。
誘拐したカルテル首領の娘イザベル(イザベラ・メルセード)を気遣う仕草や、彼女の命を守ろうとする姿はまだ彼の倫理観が残っていることを物語る。
それでいて断ち切れない負の連鎖のモヤモヤを残したラストは気持ち悪くてなんとも言えない後味だった。