茶一郎

ボーダーライン:ソルジャーズ・デイの茶一郎のレビュー・感想・評価

3.9
 混沌としたメキシコ麻薬戦争、その地獄で辛うじて正義を求める女性FBI捜査官を描く作品と思いきや、原題『Sicario(殺し屋)』の通り、まさかのある「殺し屋」が主人公の映画だったという『ボーダーライン』の続編『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』。

 前作で監督を務めたドゥニ・ヴィルヌーヴは今やアメリカを代表する映画作家となり遠い所へ、緊張感が凄まじい名スコア♪The Baestを生み出したヨハン・ヨハンソンはご逝去、エミリー・ブラントもいなくなってしまったが、ベニチオ・デル・トロがいる。
 そんな具合で、本作『ソルジャーズ・デイ』は徹底的にベニチオ・デル・トロによる、ベニチオ・デル・トロのための映画。ベニチオ・デル・トロ扮するアレハンドロの過去と内面を深くフォーカスし、三部作ラストに見事な橋渡しをする一本に仕上がっていました。

 正義の「ボーダー」をいとも簡単に踏み越えるメキシコ麻薬戦争。無法とは言うものの、この『ソルジャーズ・デイ』のアメリカ側のやり口は酷い。冒頭の自爆テロから、テロの被害に遭った事を良い事に、すぐさまメキシコの麻薬カルテルをテロ組織に認定。カルテルのボスを誘拐する事でカルテルに混乱を巻き起こそうとする算段です。
 ベニチオ・デル・トロは劇中、三船敏郎の演技をしていたと語っていますが、拮抗する麻薬カルテルを混乱させようとする彼らのやり口は、『血の収穫』、『用心棒』の三船敏郎を想起させられました。

 本作の副題『ソルジャーズ・デイ』が指すのはルールや命令から外れて動く「殺し屋」ではなく、命令によって身の置き所を変える「兵士」。そのため、本作において任務・事態を先導するのはアレハンドロではなくマットでした。アレハンドロは暴力の渦中から外れ、誘拐した組織の娘と二人で暴力の世界とは別の世界に誘われます。 
 賛否両論だとは思いますが、私は『ソルジャーズ・デイ』において、この二人旅のシークエンスが特に好みでした。常に不穏で騒がしい場とは異なる、「静」の世界。復讐に取り憑かれているアレハンドロは「Angel」(天使)に出会い、一瞬の休息を取る。まさにThe Baestとしか思えなかったアレハンドロの過去が浮き彫りになり、一気に彼は感情移入できる奥行きのあるキャラクターになりました。
 
 暴力の無間地獄を描いた社会派バイオレンス群像劇『暗黒街』で広くその名を知らしめた、監督のステファノ・ソッリマは、ドゥニ・ヴィルヌーヴ的「何か起こりそうな怖さ」ではなく、ただそこにある暴力の怖さを見事に見せ、本作『ソルジャーズ・デイ』を三部作の二作目として十二分な出来に仕上げたと思います。
 政府の命令で動く兵士に散々、翻弄される副題『兵士の日』通りの一方で、本題はやはり『殺し屋』。本作『ソルジャーズ・デイ』が「殺し屋」の映画だったと思わされるラストに戦々恐々しかありません。
茶一郎

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