しの

ボーダーライン:ソルジャーズ・デイのしののレビュー・感想・評価

3.4
外部の視点でメキシコ麻薬戦争の惨状を体験させた前作に対し、本作は内部の視点で見せ、良いように使われる兵士たちの人間的な部分や泥沼の毎日によりフォーカスしている。 どんどん拗れていく展開はやや無茶だが、デルトロの執念じみた佇まいは圧巻。

前作とはテンションが違うが、そこには視点の変化による必然性があると感じられた。アクションは多く、ただただミッションをこなしていく兵士たちの日常が描かれる。また、展開のツイストも多く、特に後半はこちらが飲み込めないままに話が本来の目的からどんどん外れていくので見失いそうになる。ただ、それ自体が無秩序なメキシコの現場と、アメリカ政府による無責任な命令との間で翻弄される兵士たちの視点を物語るようでもあった。物語としてはどうかと思うが、題材としてはこれくらい無茶な方がいいのかもしれないし、前作をやや冗長に感じた自分は、本作の方が好みだったりする。

兵士らの葛藤を描くというアプローチもいい差別化になっている。アレハンドロはもう少し少女に対し冷酷な部分を見せてもよかったように思うが、終盤の展開が全部持っていく。あそこで急に寓話めいたような違和感はあるものの、デルトロの演技による妙な納得感もある。もはやあれは不正の連鎖の中で生まれた凡ゆる犠牲や歪み、執念の化身だ。ヨロヨロと進む車に終わらない戦争の地獄を見た。

「正義」を全うするために、不正のシステムと同じレベルまで堕ちるという展開が何度もある。これは前作から一貫したテーマだが、兵士たちの視点で描く本作ではその点がさらに強調されている。そういう意味で、アレハンドロの危機は不正の連鎖による悲劇なのだろうし、更に考えるとラストシーンのその後は…。何れにせよあの少年の人生は歪められてしまった。

続編があるのなら、この終わらない戦い、不正の連鎖の先にカタルシスを得たいものである。
しの

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