まめまめちゃん

ボーダーライン:ソルジャーズ・デイのまめまめちゃんのレビュー・感想・評価

4.8
新作公開から実に2ヶ月にしてようやく見ることができました。噂に違わぬ傑作で、やはり昨年末に見ておきたかったなあ。

橋梁に吊るされた首のない死体だとか、とある丘を遠景で撮った映像のあちこちを銃声と煙が象っているだとか、その丘をバックに時に不安げな表情を浮かべつつサッカーに興じる少年たちだとか、何気ない日常にある異様な風景が実に美しい構図で差し込まれる映画。それが前作の印象でした。
そこならではのルールの存在、均衡を破れば銃声の連射音とともに流血の地獄絵図。その近景と美しい遠景の対比が、所詮アメリカ人にはこの国境近くの世界はわかるまいという象徴であった前作(…だと思ったんだけど)に比べると、今作はわかりやすいなと思いながら見ていました。

テロリストを入国させまいとしたアメリカは、メキシコ警察にとある作戦を命じた矢先になんと計画変更!それによって作戦を実行した警察側のアレハンドロと当事者の命をメキシコ警察が狙うことになるのですが…という物語。

社会的背景は相変わらず共感できたもんじゃない。犯罪が広く根深く浸透しどこで均衡を保つかで社会が成り立つなんて、アメリカや日本にいて普通に勉強して社畜になってる限り理解不能です。国境近くで行われているのは麻薬の密輸よりテロリストの密入国。どんだけ国家同士が詰んでるのか、社会が病んでるのか、その手助けを実行してるのが人間の根っこを見透かすような瞳の少年であることが何よりの衝撃。彼も当事者も大人の犠牲者であり、アレハンドロだって悪い大人の犠牲者である大人です。この物語は、国家レベルで結局理解しあえない立場同士の折り合いを、末端を処理する形でつけた小さな事件に過ぎないのですが…犠牲者はこのようにして増すばかり。この処理のひとつひとつが今後の両国を動かすのかな?だとしたらこの国の命の価値が変わっていくかもしれない。凄い。続編に期待してしまう。

銃を一斉に構えるまでが一瞬。アイコンタクトでその均衡が一気に破られる。そんな息を飲むシーンの連続が過ぎ、聾者との会話と食事シーンからのアレハンドロのまさかの絶望へと繋がる物語の転換になかなかしびれます。ベニチオ・デルトロのもう、これは得意分野なんだろうな。一難去ってまた一難みたいなのを限りなく無表情に近く厳しくかつ繊細に演じているのは流石でした。ジョシュ・ブローリンが特殊メイクしてないのは久しぶりでしたが、特殊メイクじゃない役の方がとんでもなく恐ろしく見えるのも珍しいですよね。