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クレイジー・リッチ!のHicKのレビュー・感想・評価

クレイジー・リッチ!(2018年製作の映画)
3.7
《アジア人がデートムービーで勝負する意義》

【アジア人によるロマコメ】
アジア人俳優や制作陣によるハリウッドのロマンティックコメディー。「アジア人では商業的に成功しないのか?」を実験してみせた挑戦作。アクション作品や史実系ドラマ作品ではたまにアジア人が主役の作品は制作されるものの、アジアをテーマにしない限りアジア人は主役になれない。特にロマンティックコメディーに関しては未だに白人以外を主役にしたものが少ない。今作は挑戦作として良いところを突いている。デートムービーにぴったりのコメディー色とちょうど良いライト感。笑えるポイントもたくさんあり、優秀なロマンティックコメディーだと思う。

【アジアン・シンデレラ】
とにかくギスギスしている関係性や駆け引きが楽しい。純粋な主人公と裏のある周りの人物たち。劇中でもオマージュがあったが、まさにアジア版シンデレラ。

【個人の幸せ vs 一族の幸せ】
主人公のレイチェルとボーイスレンドのニック。ニックは大富豪の息子であり、彼の母は厳格でレイチェルは一族の嫁に相応しくないと交際を認めない。欧米の「個人の幸せ」VS アジア圏の「全体主義」の関係性。

【レイチェルの反撃が好き】
そんなニックの母に最後の方でレイチェルが言った言葉が気に入った。「ニックは私との関係を続けたい。だからあなた(母)が交際を許さなければ、ニックはあなたの元から離れていく。仮に私から別れを告げればニックはあなたの事を一生恨むことになる。そのあと、一家に見合うほかの女性と結婚して孫が生まれたら、それは私のおかげ。だから、あなたは私に勝てない」というセリフ。義母に苦しめられ続けていたレイチェルの反撃として純粋にカッコいいし、逆を返せば幸せの追求と家族への貢献は結果的に繋がっているというアンサーにもなっている。

【輝く俳優陣】
とにかく俳優一人一人がキラキラ輝いていたのが印象的。主人公はもちろんのこと、ミッシェル・ヨーの落ち着いた演技も説得力があり、夫に浮気されるお姉ちゃんのジェンマ・チャンの演技も物凄く柔らかく繊細なセリフの言い方で、すごく好きになった。また、ケン・チョンはいつもながらやり過ぎ感はあるが、オークワフィナとのシーンは相性抜群で楽しい。登場する全てのアジア人が生き生きしているという点だけでも制作意義があったと感じた。

【ただ残念だったのは、】
主人公が「頭が良い」事が今作の後半でのキーポイントにもなっているのだが、職業が大学講師と言うだけで実際には「頭が良い」描写が全く無かったのがちょっと残念。

【総括】
今作は、ハリウッドにおけるアジア人の地位向上、またはアジア人に関する正当なキャスティングのため、制作はアジア人オンリーというアンビシャスな作品だが、それに対するメッセージを物語の中に埋め込んだものではなく、単純にアジア人だけでもこれだけ楽しませて興行を上げられると示すための作品だった。その点で言えば大いに楽しめ興行的にも大ヒット、大成功だろう。それ以上に今まで白人主義が特に目立っていた「デートムービー」というジャンルで勝負した事が意義があったように思う。
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