せきもと

万引き家族のせきもとのネタバレレビュー・内容・結末

万引き家族(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

傷で繋がる家族の話
初めて映画館で邦画の名作見た(?)
松岡茉優曰く"絶望的な演技力"を持つ安藤サクラの力がね
素材から調理から圧倒的でした


全編を通して「愛」という概念が欠落していた。
利害関係や共犯関係などによって繋がっている彼ら。万引き、虐待、誘拐、性風俗、殺人など家族の根底は確実に正しくない。街レベルならば見て見ぬふりができたほどの問題であった頃にはわずかながらも家族のような関係性に没頭できた。大人はそこへの諦めがありながらも根底の腐敗を忘れるほどには繋がりを求めた。ついには「愛」というものを錯覚してしまうほどに。おばあちゃんが倒れ均衡が崩れてからは公権力が介入せざるをえない状況になり、社会通念的な「愛」のその暴力的な側面によって崩壊してしまう。
実態のない大きな概念に寄りかかるように生きながらえてきた家族は、それそのものによってちりぢりになってしまうのだが、彼らの中には確実に繋がっていたという事実が残り続ける。
日本の現状(もしかしたら世界全体でも)はそういったもののあつまりであるような気がする。例えばなにか実感した感情を言葉に当てはめると、なるほど皆それを「愛」と呼ぶのかと知る。その記憶を頼りに次は演繹的に当てはめていくのだが、次第にその根本の概念が変化していっていることにほとんどが気づけない。気づけば根元から狂っていたかのようなきがしてきてしまうものである。
彼らの何が悪かったのか。日雇い、パート、性風俗、年金、彼らの収入ではどう太刀打ちしても正しさは得られない。そうした日本社会全体で過去の幻影に縋った結果の歪みでしかない。
鑑賞後には善悪という簡単な二分すらゆらぎ、彼らと同じように腐敗を自覚させられるのである。

樹木希林にリリーフランキーに安藤サクラに松岡茉優、取り調べシーンの安藤サクラは鳥肌モノ
はっきりいってえぐい
松岡茉優に"絶望的"と言われた安藤サクラ。カンヌでも話題を呼んだという

是枝裕和『万引き家族』 マスターズオブシネマ 松岡茉優

2018年12月

①学生の質問コーナー to是枝監督
「万引きを肯定している映画なんじゃないか!!」という意見を聞いて
そうじゃないんだが、そうであっても何が悪いのかという思いもある。アクション映画は人殺しを楽しむものであったりするし、日本人全体がそう思われると言うふうに思ってる人はそういうふうに映画は見るものではないと思うし、何か言うのであれば「海外の人はそうは思わないよ」とだけかな笑
Q. 自分の平凡さ(非凡さに対照的な概念として)に対してどうしているか
劣等点をどう活かすか。自分の場合は耳が良くないので逆に音の構築にこだわりがある。『ちはやふる』マンガも映画も見るといいよ。恋愛もそうだけど才能の物語としても良い。
Q.監督にとっての広瀬すずとは
素晴らしい。素晴らしいよな。最初にオーディション出会った時からこの子1人で立ってる子だなと思った。協調性がないとか暗い明るいで大雑把に二分してくらいとか言うことではなく、1人で何にも寄りかからず立っている。それを描きたいと思った。あの年代の女優ではすごいなと思う。また、20前半では他には松岡茉優が本当にすごいと思う。
三度目の殺人ではすずに、母親役は被害者意識がアイデンティティに刻まれている人だけれどすずの役は加害者意識を持つ人で、それが親子の差になっているということだけ役作りの手助けになることは言った。
Q.是枝組と呼ばれる俳優女優はどのように選んでいるの?
やはり技術で選んでいる。しかし、少し離れた時の方がいいかな、と思う人もいる。例えば柳楽優弥なんかは14の時にやったけど色んな監督俳優とやってからまたやりたいかもなと思っている。リリーフランキーと樹木希林とかは演出側に回って子供からどんな表情を引き出せばいいかとか分かっているから使いやすい。松岡茉優や安藤サクラみたいな新しい人を入れる時は勝手をわかってる人を入れたりバランスを見る。彼らありきで脚本を作ることもある。樹木希林なんかは「自分は引き出しが多い訳では無いからほかの女優を使えば?」なんて名前を出されたこともある。他にも、監督自身の隠れ蓑にできるような俳優(30代ではアラタ、40代では阿部寛)を使うことが多い。
Q.子供の演出にこだわりは?
Coccoの『砂場の海賊』は『誰も知らない』を見て是枝監督のためだけに録音してくれたものだった。PVでは自分の通っていた保育園の子達に勝手に遊んでもらった。子供の撮り方での根っこにあるのは牛を飼う小学生のドキュメンタリーを撮った時のことがベースにある。
Q.影響を受けた作品は?
いくらでもある。
フェリーニの『道』、ヴィム・ヴェンダースの『都会のアリス』『パリテキサス』などなど
講義②
松岡茉優
『勝手にふるえてろ』芝居に対してのジンクスなどの理屈的な固い考え方の最終形態に対して『万引き家族』は作為的なものは全てNGが出た。「むき出しの卵」状態。システマチックと経験則では出来なかったのでそれをさらに戻したレベル1からやったので新たな扉が開いた
三谷幸喜と是枝裕和の作品には出たいと思ったいたから、それが4ヶ月でぎゅっとあったのでチャプター1が終わったなという気持ちでチャプター2がはじまったばかり
大九明子とは共通言語を持っていたのでやりやすい部分があった
(講義前に上映されたため確認した)一年以上前の作品を見返すのは初めてだったがかなりト書きと違う結果になっているように見えてむずがゆかった
『ちはやふる』は引き算(『勝手にふるえてろ』は足し算)の役作り
是枝裕和「『ちはやふる』然りドラマ『問題のあるレストラン』などでは背中が印象的」「気分の転調が役者的にうまい(皮肉チック(?))」
気分の転調は『ちはやふる』では(マンガ的で大きいために)やりやすかったが『万引き家族』では短い歩幅でじわりと転調していくため難しかった(?)
是枝裕和「『万引き家族』では各世代の1番の役者を呼ぶというコンセプトがあった。樹木希林や安藤サクラに匹敵するのはすごいと思った。1人だけでやるのではなく関係性のなかでアンサンブルができる役者」
松岡茉優「樹木希林や安藤サクラはこれまで自分がやってきたシステマチックなものではない演技の(是枝監督的な演技の)すごい人たちだったから大変だった」
カンヌに行ってみて:①マスコミ向け「記者やパパラッチも正装、映画見ながら歓声があがる、というところがシビアで真摯な姿勢だったから、日本の人も映画に対して真摯に向き合う時間があっても良いと思う」②学生向け「是枝監督の作品に出ることなどいろいろ夢が叶ったのがあるからシンデレラみたいで、信じていれば夢は叶うんだな(実際努力もしたけど)と思った」③本音「樹木希林さんは伝説的な人だからまあいいとして、安藤サクラさんは絶望的な(にうまい)女優(リリーフランキー曰く俳優にとっても)だった。自分が今の安藤サクラの歳になって同じ実力があるか自信がない。」
是枝裕和「カンヌでは審査員の女優たちがみんな安藤サクラを褒めていた。言葉を超える何か一線を超えた状態があった。役者はこんなにすごいのかと思った」
安藤サクラの他にも満島ひかり、濱田岳、吉田大八、などほかの作品でも共演して大きいなと思った俳優はいるし、やすらぎの郷の俳優陣は財産。
大抵終われば役を成仏させるが『問題のあるレストラン』の役はもう少し一緒にいたいという気持ち
学生からの質問
Q.①役作りの仕方②役者をやっていて大変なこと③役者をやっていて嬉しいこと
A.①作品によって異なるが全てに共通するものとして、生年月日と血液型と星座と家族構成(年齢血液型なども含め)は絶対に書き出す。設定がないものは作り出す。『万引き家族』では書き出したが(それを素にやっても)OKでないから破り捨てた②休みがあっても次に控えているもののための練習があるので実質休みがない。「演技」という概念から離れるのが難しい③よかったことは反響が貰えることがあるのだが、誰かを動かせるような演技ができた時
Q.(是枝監督以外で)すごいと思った監督
A.監督も人間さんなので怖い人もいる。特に誰がすごいという訳ではなく、全ての監督がそれぞれにすごい。オーディション最終選考で落としてる人たちにはリベンジマッチがしたい
Q.①かわいさを演技で出せるのか②お笑いを参考にしているのか
A.①可愛いは作れるのかに関しては出来ると思う。表情の作り方などはテクニックでできる部分がある。(逆にそうであるからこそ『万引き家族』はやりづらかった)②コミカルな演技で大切にしているのは、『あまちゃん』ではクドカン脚本が面白かったのに古田新太や松田龍平がそれを超えてくるのがすごかった。お笑い番組のアシスタントで笑いのプロを見た時に笑いの「間」とかを意識したりするようになった。是枝裕和「宮迫博之と話した時に笑いの間は演技の間よりもコンマ単位だと言っていた」
Q.モチベーションの保ち方は?
A.妬み嫉み。
Q.チャプター2が始まったと言うが、何をしていくつもりですか?
A.人間的に豊かになること。今回の『万引き家族』で共演した樹木希林さんや安藤サクラさんを見て女性としてとても豊かだったので、自分の年輪を大きくする作業をしていきたい。