TaichiShiraishi

万引き家族のTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

万引き家族(2018年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

前に
「映画っていうのは問題提起をするもので、問題に対する答えを示すものではない」って言う誰かの言を聞いたことがあるんですが
この映画は正にそれ。

パルムドール受賞あたりから、見もしないで万引きを肯定的に描いてるとか、犯罪で繋がる家族とか気持ち悪いみたいな意見をSNSで見かけて嫌な気分になってたんだけど、これはそんな一元的な見方全くできない映画。

何かを肯定的、否定的に描くとかそんな次元は超えて、見る人によって写し鏡のように感じること、考えることが変わる作品になってると思う。これからも見るタイミング、見た人が置かれている状況、そして時代背景が変わるとまた違う側面を映し出していくんじゃないか。

僕も見ている間、
本当の家族じゃないけどでも楽しそうって思ったり、いや、でもやっぱりコレはいかん、コレは嫌だって思ったり色んなことを感じた。

それも是枝さんの術中にハマってるのかな。

日本の現在の社会の貧困問題の要素も描きつつ、この家族はただの被害者ではないという目線もしっかりあった。

そもそもみんなで鍋つついたり、割とビールガブガブ飲んでたり、
コロッケ買ったり、海水浴行ってたりしてたし、そんなめっちゃ切り詰めて生活してるわけじゃないし。

箸で人を指したり突っついたりとか、入れ歯無しでミカン舐ったり、生活必需品じゃないものを万引きしたり。見てるこっちがちょっと、え?ってなるような描写も多い。
祥太がはっきりと否定的な目線を大人たちに向けるシーンもあった。そのあと、妹をかばうために、自分が捕まる道を選ぶのも切ない。


いつも通り役者は全員凄まじい演技。
リリーフランキーはいつまでたっても貧乏臭さが抜けないというか、日本一貧乏が似合う俳優だと思う。あの全然立派じゃないけど、でも人好きする感じとかリリーさんならでは。一緒にいて楽しい人なんだけど、でも「周りにも自分にも優しい、というか緩い」人だから人生上手くいってないのかなってわかる、身につまされるキャラ造形。

希林さんはいつも通り安定の超親しみやすいクソババアって感じ。品行方正さ皆無だけど、優しくて、でもズルいっていうどこにでもいそうなババア像が完璧でした。

松岡茉優もさすが。若手筆頭の演技力。キャラ的には勝手にふるえてろと桐島で演じてた女子の中間くらいか。そして今作は松岡茉優の谷間が拝めるのでファン必見。是枝さんは女優をエロく撮るのも天才的。

子役もいつも通り是枝メソッドで本当に自然な演技。子役が変に声を張り上げたり、異常にハキハキ喋ったりする昨今の邦画のウンザリポイントがないだけで作品としての価値は1000円くらいアップしてると思うのは俺だけか?笑


そして本作のMVPは安藤サクラ。体つき込みの生々しい存在感や、涙の流し方、表情の微細さまで本当に凄い。取調べ受けながら思わず涙流すくだりは本当に自然すぎてギョッとしてしまったり。
凛ちゃんを可愛がったり、リリーフランキーに抱きついたりする時の動物的な、本能で愛してるって感じの表情やしぐさもぴったりだった。



役者たちの力量が最高なので是枝
監督の自然な会話の中から話の全体像や伏線が浮かび上がってくる演出もキレッキレ。

和気あいあいと楽しそうな家族を描きつつ、観客がだんだんと「あれ、この一家って‥?」って違和感を積み重ねていくのが上手い。

なぜリリーフランキーは希林さんをババアと呼んでるのか。なぜジジイのことは知らないのか。

希林さんはなぜ年金のことを慰謝料っていうのか。

なぜ松岡茉優が風俗で「さやか」って名前を使ってるのか、なぜそれがズルいのか。

安藤サクラとリリーフランキーがSEXした後、「できた‥」っていう理由は?

安藤サクラと凛ちゃんの腕に同じような傷がある理由は?

会話に色んな伏線が張られていて、劇中でわかることもあれば、観客の想像に委ねられることもある。
そういう考えを巡らせたくなるのもいい映画の証だし、見た後もずっと心に残る。

あと、終盤凛ちゃんが家に帰ってから実のお母さんに「ごめんなさいは?」って言われるんだけど、実は序盤に凛ちゃんが一家に迎えられてすぐ、お漏らしした時に安藤サクラにもっと軽いトーンで「ごめんなさいは?」って言われてるシーンがあって、さらっとシーンを呼応させてるのもさすがと思ったり。

で、全然綺麗事で終わらないラスト付近の展開もリアル。

バスに祥太が乗ってからリリーフランキーがフレームアウトするまで振り返らない演出も抑制が効いてるし、
中盤で「自分で選んだ家族の方が絆強いんじゃない?」みたいなこと言ってた安藤サクラが、最後に祥太に実の親に関する情報を言うのも答えを一つに絞らないこの映画のスタンスが現れていたと思う。

バッドエンドというより宙ぶらりんエンド。これからの彼らの生き方でほんの少しだけ家族として暮らした日々の意味や価値も変わっていくだろう。

ちょっと気になったのは、みんな普通に街中で万引きの話しすぎじゃないかってところと、オーストラリア行ってるフリして家出って無理があるんじゃないかってところかな。
TaichiShiraishi

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