コミヤ

万引き家族のコミヤのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.6
「何者」を観た時に感じたような自分の内側から溢れ出そうになる感情を抑えるのが必死になる程の映画体験だった。今年では「ちはやふる結び」と同じかそれ以上感情を揺さぶられた。

ニュースで報道される事件の裏にある真実や社会の闇に埋もれた弱者にスポットライトを当てる本作は是枝監督の過去作との類似性を感じさせる。 今年のカンヌのテーマは"invisible people"の存在に光を当てることらしいけどそれは監督はずっと前から一貫してやってきてることであり、 それが今回パルムドール受賞という形で世間に広がり、形は違えど様々な反響を呼んでいるということは本当に意味のあることだと思う。

「きみはいい子」のキャストである高良健吾と池脇千鶴を出演させ、しかもそれとは真逆の役柄を演じさせていたのは完全に意識しているのかもしくはそれへの回答を示そうとしているのではと思った。

「きみはいい子」では敢えてラストをファンタジックな雰囲気にして映画だからこそなし得る救いを見せる。しかし本作では観客に現実を正面から突きつけた幕引きとなってる。

是枝監督は自分の考えを押し付けるということはせず、かなり含みを持たせた作りになっているので観る人によって解釈は大きく変わるのではと思う。

自分としてはそれが一瞬だったとしても、彼らが血を超えた絆を確実に共有したということは紛れも無い事実であり、それは皆が内向きになりつつある現代において最も重要なことだと感じた。

家族とは何かなんて他人が強制できることではない。きっかけはどうであっても人と愛や絆を共有した瞬間から家族になり得るし、そのことを実感する事が何より大切なんだと思う。

キャストの演技力も皆がベストアクト級の素晴らしいものだった。全員挙げたらきりが無いけど本作で一番印象に残ったのは安藤サクラ。
その白眉と言えるのが長回しで正面から映された彼女が尋問中に込み上げてくるものに耐え切れなくなり自然と涙を流すという演技。是枝監督も演技を超えた何かを見たと言っていたけど、自分もあまりの凄さにただただ圧倒された。演技でここまで心動かされたのは多分初めて。凄すぎる… もっと出演作見てみたい。
城桧吏君の男前っぷりも半端ない。将来が楽しみ。
「勝手にふるえてろ」で完成された演技の型が一切本作ではハマらなかったという松岡茉優。一旦その型を全部捨て、一からあるがままの姿で作り上げた彼女の演技は今までとは全く違う印象を受けた。また役柄には監督のフェチの部分が出ていた。ありがとうございました。
コミヤ

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