えむえすぷらす

万引き家族のえむえすぷらすのネタバレレビュー・内容・結末

万引き家族(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

是枝監督作品は苦手。「海街diary」は原作が舞台設定など忠実にもかかわらず、登場人物の演技について俳優の自由度が高くて、原作登場人物のキャラクタ造形から外れていたと思う。そこが棘になってあまり評価してない。

本作はどうか。監督のオリジナル作品であり、極めて独創性の高いストーリーが編まれている。
是枝監督はテレビマンユニオンでドキュメンタリー畑からフィクション作品に進出されていて独特な視点での分析がある。

本作の場合、タイトルは結構なミスリード案件だと思う。そして前半部は家族の謎の提示部となっていて、冬(2月)から春、夏と進んでいく。
後半は「祖母」のある出来事から世界が崩れていく。その中で「長男」が怪我をして捕まり、逃げだそうとした「父」「母」「母の妹」「長女」が捕まって、「長女」は保護される。

取り調べに当たった男女二人の刑事はシステムの歯車だがそれに気付いてない。だから建前を言い、相手の理由を探る事なく断罪していく。
あの二人を高良健吾、池脇千鶴を充てるところにセンスを感じる。普通ならいい警察官役だろう。でも本作では薄っぺらい上辺で判断して説教をする最悪の人物像を演じている。

池脇千鶴演じる刑事は「長女」が実の両親に戻されたと告げて母親が必要的なテンプレートを言った。それに対して安藤サクラ演じる「母」は虐待の疑いについて言う事なく、ただ捨てた人がいて拾っただけという謎の問いかけをして、ある刑事事案の責任を一心に背負い込む事を選んだ。

この事で「長女」のその後は極めて不安定なものになった。実の母親は彼女の事を邪魔だと思っている。でも「母親」に対して上辺の正義、常識をほのめかした刑事たちも熱しやすく冷めやすいメディア。
そして誰も「長女」に関心を持たなくなった。

大半の登場人物は何かしらの正しさと誤りを併せ持っている。
その中で無垢と言えたのは「長男」と「長女」だけだった。
「長男」は高良健吾扮する刑事にある事を問う。システムの一部である事に疑問を持たない若い刑事はただ上辺だけの答えしか返せなかった(あの刑事に「上辺」だという自覚がないのは従順な歯車の証拠でもある)。

「長男」にはある程度道筋がついた。
では「長女」はどうなるのか。女性刑事の薄っぺらい常識が彼女の救いに全くならないという強烈な恐れを残してこの作品は閉じている。