YokoGoto

万引き家族のYokoGotoのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
3.5
ー子役、佐々木みゆちゃんの好演なしでは成り立たなかった作品ー


毎年開催されるカンヌ国際映画祭だが、今年ほど日本国内において『パルム・ドール』という言葉が飛び交った年はない。
元来、パルム・ドールを受賞するような過去作品は、万人受けする作品は少なく、年間、数百本以上映画を観るようなコアな映画ファンに好まれる作品が多いのだが、日本人監督作品が、久しぶりにパルム・ドールを受賞するという快挙に、普段はあまり映画を観ない層にも『パルム・ドール』という言葉は浸透したようで喜ばしい。

カンヌ国際映画祭で評価を受ける作品は、貧困・人種差別・性的マイノリティー・家族などをテーマにしているものが多いのは言わずもがな。
社会でなかなか光のあたりにくい部分にも、きちんと光をあてるような、社会派作品が好まれるのである。

よって、はなからエンタメ性を期待して鑑賞すると、腑に落ちないままに終わるエンディングに物足りなさを感じてしまうので注意が必要である。

さて、久しぶりにパルム・ドールを受賞した日本人監督、是枝監督の最新作『万引き家族』。

過去に、是枝監督の作品は、合計9作鑑賞しているが、いかんせん、どうにもこうにも、私の好みに合わないものが多く、比較的辛口評を投稿してきた。

映画の好みはひとそれぞれであり、感じ方も考え方も違うのだから、多くの人々に称賛されている監督作品が、「どうしても合わない」という事はご容赦願いたい。

もちろん、映画愛に溢れた監督の一人だと思うし、まっすぐに映画に向き合っている事は、とても良くわかる。しかしながら、過去作9作品に関しては、私のみぞおちにはハマらず、どうしてもピンとこなかった。

なので、パルム・ドールを受賞した本作は、過去作の先入観無しに鑑賞するようにした。

結論からいうと、パルム・ドール受賞作として、非常に相応しい社会派ヒューマン作品だと思うし、日本人監督作品として誇らしい作品であった。
起用した役者はみな、実力派ばかりで、演技は世界標準だと思う。

テーマは、家族のカタチであるが、社会的弱者や貧困、という問題も並行して走らせているので、社会派作品としては、いろんなものがてんこ盛りといった具合である。

大筋のあらすじについては、さほど難しさもなく、ひたすら、淡々と家族の日常を移しながら、自然と浮き彫りになる、家族のカタチを手探りになぞっていくような手触りは、邦画独特の良さも感じられる。

過度な演出も無いし、これといって大きな出来事もない。
淡々とはしているが、十分観客に語りかけるものは熱いものがある。

しかしながら、
いかんせん、シナリオが、やはり退屈だった。
家族の形を、深掘りしているような気もするが、やはり個人的には全体的に薄味に感じてしまった。

そして何より、タイトルの「万引き家族」の「万引き」については、センセーショナルなテーマとみせかけて、そこは、あまり本筋には関わっておらず、結局、センセーショナルな言葉だけが踊ってしまったような気がする。

結局のところ、あれもこれも、色々盛り込んであるが、一つひとつが薄く感じる。おそらく、それはそれで良しとしているのだろうが、個人的には、要点をしぼって深く掘り下げてもらうシナリオの方が好きかもしれない。

そういう意味では、数年前パルム・ドールを受賞した、ケン・ローチ監督の「わたしは、ダニエル・ブレイク」の方が、いいたい事が絞られて心に響きやすかった。

もちろん、本作を通して、何かの結論を浮き彫りにするような話ではないことは百も承知である。しかしながら、結論は導きだせなくとも、何かを考えるキッカケになる映画が好みなのだが、最終的に本作からは、何かが残ったという感触がなかったのが本音である。

最終的には、「カンヌを狙ってつくられたのだろうな」という印象で映画が終わってしまった感じが否めなかった。

キャストについては、特に不満はなかったが、とにかく子役の佐々木みゆちゃんは、素晴らしかった。どこまで演技をさせたのかは不明だが、わずか5歳の幼子の演技としては、100点満点だと思う。

彼女無しでは、成り立たなかった映画だとさえ思う。

是枝作品は、多くの人に認められ、多くの人々に感動を与え、映画を観るきっかけになりうる作品を多く世に出している。
しかしながら、個人的には、表面をきれいになでるようなシナリオが苦手であり、キャステイング部分でも、大胆さの感じられないキャステイングが、とても苦手なのは、やはり本作でも同じ印象に落ち着いてしまいました。

しかしながら、是枝監督のパルム・ドール受賞は日本国内の映画人に、多大なる影響と希望をもたらしたに違いない。
これをキッカケに、沢山の才能ある若手映画監督が、思う存分、自分の映画を世にだせるような環境になっていくことを、心から望みます。
YokoGoto

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