nero

万引き家族のneroのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
5.0
監督自らが語っていたように”Invisibleな”共同体の物語だった。
現代社会の底辺に寄り添う、家族ではない家族。前半は彼らの生活とそれぞれの事情を織物の糸をたどるように少しづつ見せていき、それぞれ別の名前、別の実相を持つ人々であることが次第に明かされる。亜紀の源氏名の意味、祥太の名前、信代と治の過去、初枝の慰謝料・・・少しづつ明らかにされるものの、見えないものは見えないまま彼らの生活は続いていく。
同録なのか、ややくぐもった音声ゆえ聞き取りにくい部分も多いが、それもおそらく狙いなのだろう、是枝監督流のドキュメンタリー的な実在感が画面を満たしている。映像としては、さやかと4番さん、そして亜紀と初枝の、鏡像のような2つの膝枕のシーンがピエタを思わせて強く印象に残った。

そして中盤、治のケガ、信代のリストラ、初枝の死、とクリティカルな状況が続き、祥太が小さな罪悪感を抱き始めたことを契機に(ここでの柄本明演じる駄菓子屋のじじいが凄かった) ついには家族の崩壊へと至る・・・。
取調室での聞き取りが延々と続く後半、治、信代あるいは亜紀の正面からの受け答えシーンは、「家族って何だよ?」と自分が問いかけられているようだった。そして同時に、切り替えされる刑事のショットは否応なく自分を責める側・無責任な世間様の側にも立たせる。”柴田一家”の実相を幾分かは知る自分たちはその時何を語れるのだろう。信代の涙が沁みる。それは、失なわれたもの=家族(おそらく何度目かの)への思いなのか。

例の5才女児虐待死事件の直後であったためか、鑑賞直後はじゅりが虐待死という結末を逃れたことにホッともし、モヤモヤもしたが、日を追うごとに、ラストカットでのじゅり=凛のうつろな目が、祥太の声にならないつぶやきが、空き家を覗く亜紀の無表情な横顔が思い返される。再び居場所を失ってしまった子供達3人はこの後、あの家で過ごしたひとときを自分の中でどう収めていくのだろう。こうした答えのないモヤモヤを残すのが是枝流なのだろうが、本作ではそれが特に強かった。

この映画に不満があるとすればたったひとつ この真正面すぎるタイトルかもしれない。
nero

nero