ちろる

万引き家族のちろるのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.4
「家族」は、共にいるのが当然だと思うから支配的になり、逃げられないと思うから息苦しくなるわけで、もし何にも保障されていない関係ならもっと目の前の人を大事にしようと思い、絆が永遠でないのもどこかで分かっているから瞬間瞬間をかけがえのないものにしようとすることもある。
それはまるでスイミーの魚たちのように自分の持ち場を離れないように必死にこの家にしがみつく彼らの姿が温かく見えたのはそういった彼らの持つ刹那的な生き方のせいなのかもしれない。

各所に「選ぶ」という言葉が印象的に散りばめられているこの作品。
この家族は皆、拾ったり拾われたらしながら結果的に皆が「選んで」この小さな家にいる。
もし「選ぶ」事が人間がアイデンティティを形成することの一部ならば、ぬるま湯でぼけっと生きてきた私よりも沢山の人生の選択をしてきた彼らの方がよっぽど真剣に「生きている」のだろう。
もちろん倫理的に外れた事をして生計を立てるこの家族を褒めることはできないけれど、
正しく生きることとと人間らしく生きることの二つをどうしても重ねることのできないそんな人達が都会の片隅に存在するのだという事も忘れてはいけないのだ。

世間のニュースの一つになればそれは単なるはちゃめちゃな張りぼて家族でも、あのキラキラした海で遊んだの1日はまぎれもなくリアルであり、その瞬間の彼らが感じた幸せは張りぼてではない。画用紙いっぱい青で塗りつぶす幼いゆりにとってはきっと海そのものが幸せのイメージになると願いたい。
幼いゆりは選んでこの家に住み、祥太は治たちを受け入れる事を選んで生きてきた。
虐待でも、いじめでも昨今無慈悲に失われる命の大半が「選ぶ」ことのできなかった結果だとしたら、祥太とゆりの人生も「選べる」という事を知っているというだけでも前途多難に見える未来に救いがあるのかもしれない。
ラストまでつくづく是枝監督らしい。
キャストも最高ですがやはり話題の安藤サクラさんの泣きの演技はアドリブとのことで、もう鳥肌たちました。

私が生まれて初めて映画館で観た邦画は是枝監督の「幻の光」で、それは誰かの勧めでもなく自ら「選んで」見つけて作品だから、是枝さんは今の私の一部を作ったと勝手に思ってるし、そんな是枝監督がパルムドール賞を獲ったことはとても感慨深い。
日本には是枝監督、西川美和監督のようなオリジナル脚本で作ることができる作家性のある監督が少ないけれど、彼らのような監督が活躍できる場が守られてほしいと願っている。
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