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万引き家族のmのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
5.0
「そして父になる」から是枝作品の『フィクション性』が急に増したと個人的に感じていて、特に「三度目の殺人」ではそのあまりにあざとい嘘臭さが鼻に付く程増していた。それ故に今作も設定を聞いた段階では『“リアル”のレプリカ』のような物になるのではと勝手に危惧していたが、それは全くの杞憂だった。


現代日本の問題点を集約した脚本は問題の詰め込み過ぎ感もほんの少しあるが、今回はそれらの社会的な要素の密集が嘘臭くなる事なくしっかりと寓話性に結び付いている。

素晴らしいのはこの映画が終始グレーな部分を描く事。主人公一家を貧しくも清らかな聖人として描く事は容易だし多くの映画はそういう飲み込みやすい方向に流れるだろうが、この映画は彼らの汚い部分をしっかり汚い事として描いている(そしてそれを自覚していく子供の視点を描く)のが素晴らしかった。
そんな汚い事をしていてもなお、映画の大半の時間を使って描かれる彼らの共に過ごした時間は本当に愉しく美しく掛け替えのない光を放つ。だからこそ彼らが罪悪感無く犯す罪は苦く、終盤彼らを追い詰めていく世間一般のモラルは観客の価値観と心を激しく揺さぶる。
何が『正しい』のか、社会がどうであれば彼らはこうならずに済んだのか、『家族』とは何なのか。それは素晴らしいグレーゾーンの結末と共に観客各々が持ち帰ってこれからずっと考えていく事だ。
いま日本のメジャー映画でこうした社会への問題提起と映画話術の試みを成し遂げた事には、計り知れない価値がある(そしてそれがパルムドール受賞でより多くの一般の観客に届くようになった事が喜ばしい)。


是枝監督の演出・脚本・編集も素晴らしいが、特筆すべきは俳優陣と撮影・照明の圧倒的な素晴らしさ!(撮影の近藤龍人がこの映画で果たした役割は恐らく監督並みに大きい)

是枝組らしくのびのびと力強く映画の中で呼吸している子供達、そろそろこういう役で見る事に飽きてきたはずなのに今回はより一層生々しい弱さと醜さと憎めなさを発揮して印象深いリリー・フランキー、短い出番で台詞が無いのに強い存在感を発揮する池松壮亮、忘れられない人間味を残していく柄本明。皆素晴らしい。
「空(カラ)の味」で素晴らしかった堀春菜が、JK見学店で松岡茉優と対を成す同僚役で登場してさり気なくピリリとした存在感を残すのも嬉しい。

そして何と言っても感嘆すべきは女優陣!不敵さと暖かさが同居してパワフルに魅力的な安藤サクラ(あんなに美しい人だったなんて!)、明るさと脆さが愛おしい松岡茉優、リリーさんと同じくそろそろこういう役で見飽きてきたはずなのに今までにない生々しい老いを魅せつける樹木希林。皆しばらく忘れ難い、最高の演技をフィルムに焼き付けている。彼女達はこの映画の魂だった。
安藤サクラの演技に、完全に心引き裂かれてしまった。
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