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万引き家族のTakaCineのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.8
【家族ってなんだっけ?】
ここで描かれるのは、日々精一杯、家族として泣き笑い、お互いを支え合い、辛苦を共にしながら…ただ生き抜く為に、窃盗行為などを続けるしかなかった家族の姿。

いろいろ思うところがあり、長々とレビューをしてしまいました😅

昔に観た、大島渚監督『少年』の"当たり屋一家"を思い出しました。社会からドロップアウトしてしまった家族の哀しみ。這い上がれない社会構造、世間の冷たさや無理解や決め付け(常識)が、今も昔も変わらず鉄拳制裁として家族に立ち塞がる様に、正直うんざりしてしまいます😖

社会の底辺に堕ちてしまい、容易には這い上がれず、傷をなめ合って、盗んでも生き延びる家族の悲哀がずっしり漂っていて、簡単に非難など出来ませんでした。

好んで堕ちる人間はいない。

今の社会は、道を外したら"許さない"社会。弱さや愚かさや失敗を忌み嫌う社会。その緊張や不安は日々ストレスとなり、心と体を蝕んでいく。家族がオアシスになれば救われるかもしれないけど、家族1人1人もストレスまみれで、心を向ける余裕もないのが今の現実。そりゃ心も体も病気になるし、耐えられず自殺も…

むしろ、この家族(柴田家)は関係が良好なのが最大の救いでした。家族団欒や海辺の場面など、幸せな家族として過ごす幾多の描写に、長時間、共に過ごすことで自然に生まれた家族の"絆"が強く感じられて、殺伐とせず人間の心を瞬時に取り戻させてくれました。

この家族には絶望や諦めでなく、不思議と笑いがいつもありました。

〈とびっきりの家族愛〉
特に、不器用だけど飄々として優しい治(リリー・フランキー)、柔和で温かい笑顔の初枝(樹木希林)が醸し出す雰囲気に心が和んで、一昔前の大家族のホームドラマ(「寺内貫太郎一家」、「時間ですよ」など。どっちも希林さん、出てますね😅)を見ているようでした。楽しそうで一緒に暮らしたいと思ったほど♪

でも犯罪家族である限り、この幸せはいつか崩壊して…😢ツカノマ

そんな刹那的な犯罪家族の中に生まれた、"とびっきりの家族愛"が愛しくもあり切なかった。

だって、いつか消えちゃうから…

〈親になるには試験が必要?〉
「家族ってなんだろう?」と鑑賞後、余韻に浸りながら考えてました。

産んでも育児放棄する親
自らの子供を虐待する親

「産んだら母親なのか?」と
問いかける信代(安藤サクラ)の言葉が胸に刺さります。

親になるのに、免許も許可も貰わないですよね。試験をして、あなたなら合格だけど、あなたなら失格とかしませんよね。

本当は、試験をしてから親になってもらいたい!?勝手に産むな!勝手に親になるな!そんな気さえします。

子供を殺す親や傷付ける親など「ふざけんな!」と思いますし、親のちょっとした言葉や行為で、心に一生モノの傷を残してしまう子供もいるのですから、親としての品性を養う教育は絶対必要なはずです!

子供はいつでも被害者だから。

子供を健やかに育てるには、お金より(貧乏は困りますが)学歴や地位より、側に寄り添う、目を見つめて話を聞く、抱き締めてあげる、一緒に時を過ごす…そんな愛情を感じさせる瞬間を多く作ることが必要なのかもしれません。

だから、それが実行出来ている柴田家が凄く羨ましかった!僕の親はいつも忙しそうで、そんなスキンシップなど望むべきもなかったから。だから寂しかったなあ…

この歪な家族は、犯罪家族だったけど、家族としての強い覚悟と深い愛情が確かにあったと思います。

〈心の闇と崩壊〉
とは言え、窃盗行為を続ける環境が子育てに良いわけはなく、ある事件がきっかけで、祥太(城桧吏)の心に「万引きはいけないこと?」という疑問が浮かぶようになります。

なぜなら、万引きは治から教わったことだから。それを否定することは、父親と家族を否定することと同じだから。

柴田家の住民はそれぞれ心の闇を抱え、その成り立ちにはある秘密がありました。祥太の行動から加速的にそれが暴かれ、やがて家族が崩壊していきます。

家族の崩壊は初めから分かっていたこと…だっていけないことをしているから。ただ少しでも家族の気分を味わいたかった。期待はしないけど、消えるまでは"絆"は手放したくなかった。

日陰者同士が身を寄せあって生きる。
居場所は他になかった。

心の闇や寂しさを少しでも忘れ、心に空いた穴をお互いで埋める。

そんな彼らだけが悪いのか?
(もちろん、万引きは容認しません)

本作は、善悪や社会常識では図れない、ある「家族の形」を提示してくれました。この家族を非難するのは簡単ですが、彼らの悲痛な叫びを苦しみを切り捨てたくない。

社会が厳しさだけで寛容さを忘れたら、息苦しいだけの世界になってしまいます。狡い奴や悪人は当然ダメですが、転落した人や見捨てられた人など社会的弱者になってしまった人々を、例えば「怠け者」「落伍者」として弾劾せず、しっかり判断する視点を本作は提供してくれました。

この"万引き家族"は、悲痛な"絆"のホームドラマでしたね。

〈リアルな描写力〉
デ・シーカ監督『自転車泥棒』みたいなセミ・ドキュメンタリーの生々しさ(リアル感)、困窮や辛苦に満ちた現実の厳しさ、血も涙もない展開、会話の辛辣さ、物語のディテール、柴田家の部屋の乱雑ぶり(空虚を埋めるように物が溢れている)、登場人物の生活感、仕事場や日常の風景の1つ1つが劇映画ではなく、現実に思えてしまうリアルな描写力が本当に凄い‼️

映画を肌感覚で理解していく感じ。

どしゃ降り雨、裸同然で食べるそうめんの日本映画らしいエロチックさ、食と性の関係(今村昌平映画のよう)。押入れ、風呂、駄菓子屋、鍋、コロッケラーメン(食ってみたい)、ラムネ、花火大会、雪だるま…次々押し寄せる出来事の全てに息を呑む瞬間がありました。

達者な俳優陣の素晴らしい演技というより、演技を越えた人間の熱量みたいなものが押し寄せてきて驚きました。

白眉は信代役の安藤サクラ。少しずつ母性に目覚める姿、ゆり(佐々木みゆ)を抱き締める姿も素晴らしかったですが、尋問シーンの静かに心情を吐露する姿は鳥肌が立ちました。

このシーンは演出に裏技があって、尋問する池脇千鶴さんたちにだけ質問内容を知らせて、安藤さんには何も知らせず(台詞がないまま)、不安の中で答えてもらったそうです。『羊たちの沈黙』の監獄シーンに似た緊張感、怖々した挙動や言語、手で何度も拭いながらさめざめと泣く姿は、計算された演技では出せない信憑性と驚きに満ちてました。度肝を抜かれました。

祥太の真っ直ぐな眼差し
初枝の海辺の声なき言葉

印象的なカットが多かったです。

丁寧に創り上げて、現場の瞬発力や即興(アドリブ)も大事にする。

その緻密で繊細で真摯な作業が、本作のような"映画を観た"というより、"人生を観た"という気分にさせる凄い映画を産み出しました。ぜひ観て頂きたい作品です😊‼️

カンヌ国際映画祭で約9分間にわたるスタンディングオベーション、最高賞パルムドール受賞㊗️🎉