純

万引き家族の純のレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.7
陽のあたる場所の正しさしか知らない人々の目なんて、盗んでしまえばよかった。そうして彼らだけが、仄暗くやさしい場所で、いつまでもいつまでも一緒に暮らしていけますように。非難する前に、あのひとたちをそんな瞳で見ることは罪だってこと、私たちはちゃんと知らないといけない。日陰を見たことのない瞳は尖っていて、痛くて、震えてしまうくらいに怖いよ。

誰も血の繋がりなんかで結ばれた関係じゃなかった。でも、ここじゃなきゃ嫌だと思える大切な居場所だった。散らかっていて、貧しくて、どうしようもなく落ちぶれた空間。世間というものがあるのなら、彼らは世間から見放された人々で、社会でいう過ちを繰り返すことでしか、生活を続けていくことができなかった。それなのに、何も足りていないのに、どんな場所よりも満ち足りた幸せが確かに存在した、あの家。無性に羨ましくなるほど明るく照らす彼らの笑い声は、どんなに未来が暗くても消されるべきじゃなかった。本当に世間からはみ出していたのはどっちだろう。大切にすべきことを壊れないように抱きしめていたのは、どっちだと思う?

少しずるい大人たち、無防備なままの少女、諦めること、怯えることを覚えてしまった子どもたち。皆何かを失って、ここに集まってきた。彼らを繋ぎとめていたのはお金じゃなくて、孤独だよね。誰にも必要とされないひとたちが、役に立てる場所を探し歩いて見つけた、たったひとつの秘密基地。お互いに相手の痛みを知ることはなく、知ろうとする関心もないけれど、でもこのひとは傷ついているんだってことをわかっている。それだけで、冬の寒さも耐えられるくらいの温もりがあるんだな。きみたちとじゃなきゃ、こんな素敵な空間にはならないよ。

自分を救ってくれた彼らの「拾ってくる」精神は、同じくらい簡単に捨てられる未来も一緒に連れてきた。そう、いざとなったら置いていかれてしまうことなんて、哀しいくらいに当たり前だった。それでも、振り返らずにはいられないから。帰るならあなたたちのいる場所がいいと、大きな声で言いたいよね。見返りなんて必要ないよ。祥太が振り向いた先にも、じゅりが見据える向こうにも、もう戻れないあの景色があった。お金がなくったって一緒にいたいのに、それでも生活するための基盤がなければ、仲間を助けることさえできない。繋がっているだけじゃ駄目だった。愛しているだけでそばにいたいのに。でも、本当の愛とか絆は目には見えなくて、目に見えるものだけが真実とみなされてしまう世界に迷い込んでしまった彼らに、逃げ道なんてひとつも残されていないんだね。

家族だったのにね。どうして私たちは関係性に名前をつけなくちゃいけないんだろう。誰かと一緒にいる理由に名前なんかいらないって言ったら咎められるのはなんでかな。大切なひとたち以外になら嫌われたって憎まれたって構わないってこと、自分を傷つけて証明しないと、あなたたちには、わ、わかって、もらえない、ですか?私たちが幸せになるためには、もっともっと傷つかないと、駄目ですか?皆が、持っているものを、欲しがる、そのためには、まず、不幸せにならなくちゃ、私たちは、私たちだけは、駄目ですか。
純