YUKi

万引き家族のYUKiのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
5.0
誰のものでもない、
行き場がない者たちが見つけた
場所が、ただただそこにはあった。

というだけ。というだけの理由なのに
あれほど自然な形で
絆を深めることになるとは
誰も思わなかっただろうな、
とか感じながら。

生きにくさや善悪を問われつつの
社会から遮断された生活のなかで、
疑似家族には常に笑いが絶えない。

愛情を与えられなかった者も
与える側に転じる。

人生のなかで
ほんの一瞬の触れ合いだったはずの
あの時間。
慎ましいアパートの一室の光は
ほの暗くても、愛と輝きに満ちていた。


いやーーーもう、苦しいくらい
泣かされました。
キャスト全員の卓越した演技力が‥とか
言い出してもキリがない。

是枝監督ならではの空気を纏った
語らず演出の雄弁さ。

たびたび挟み込まれる
ロングショットの存在感と
意味深さよ‥。

とくに安藤サクラには
「100円の恋」以来に心奪われて
思い返したらすぐ泣けるレベル。

細々と仕掛けられたメタファーを
自分なりに落とし込んで、
気づきがある度に人と話したくなる。

どんな作品においても、
自分の境遇がどうであれ
弱者を放っておけない設定は
大好きなんですが、
それだけじゃないんですよね。

もちろん今回も、漠然としていて
観客に託された部分も大きいです。

でもそうやって、観客が
人間の心理を想像して
咀嚼して受け取るような作品を以って
わたしたちを鍛えてくれないと、
邦画界は先細りしてしまう。

この監督は観客にわかりやすく
理解しやすいものを作っている訳ではないのに
海外でも高評価され、
興行収入も得られるものを
作り上げている。

邦画を守るために命懸けであるようにも感じる。
やっぱり今の日本の邦画界に
なくてはならない人だ。
この作品は、そのことも改めて
世に知らしめる機会になったのではと思う。


追記:
是枝監督は、
この作品がリリースされたとき
まずタイトルで叩かれ
パルムドール賞を以ってしても
日本の恥を晒すのかと咎められた。

その後の製作費の支援問題に及んで
主にSNS上で批判された。

もちろんそれはごく一部の人の
ごく一部の言動かも知れないけど、
もしかしたらその一連をすべて予測して
プロモーションだと割り切っていたような気がせんでもない。

だとしたら、監督こそスイミーで
あの一連の騒動は邦画を護る術だったのかな‥。
興行収入を得られる作品が
ヒットした業績のある
漫画や小説の映画化で溢れかえり
記号化していることを打ち破る存在に、
今こそ自分がならねばと。

どうなんでしょう。
どう思います?
YUKi

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