しんご

万引き家族のしんごのネタバレレビュー・内容・結末

万引き家族(2018年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

だいぶ昔に「踊る大捜査線2」を見たときとても印象に残ったシーンがある。それは、作中に家族ぐるみで万引きをしている家族が何度か登場していた場面だった。
そのときはなんとなく、「こういう家族の形もあるのかな」と思ったものだが、まさか今になって一家で犯罪を犯す家族をテーマとした作品と出会うとは思ってもみなかった。

作品の冒頭部分には、タイトル通りいきなり家族で万引きをするシーンが描かれる。その場面では、自分のようないわゆる普通に生きてきた人はフィクションながらもどこか罪悪感を感じずにはいられなかったと思う。しかし、あの家族にしてみれば労働や家事にも似たような生活の一部に過ぎないのだろう。いとも簡単に万引きしてしまうのだ。
そのシーンの後に少し驚いたのは、その帰りに立ち寄った揚げ物屋さんで普通にコロッケを家族人数分買って帰ったのである。「あれ、これ万引きがテーマじゃないのかな?」と思ったものだが、あくまで万引きは生活の一部であり、買わなければ手に入らないものは他の家族となんら変わらずお金を払っていた。自分はまだ実家暮らしなので想像もつかなかったが、あくまで万引きだけでは生活できるわけがないということをこの時点でなんとなく思い知った。結局は金がものを言うのだなと。

そしてそれから物語を展開させていく出来事が起こる。客観的に述べるなら"児童誘拐"と言うべきものだ。しかし、その女の子は虐待を受けていたのだ。その子を保護するべく誘拐したのだ。
この場面では、思わず「この家族にも良心があるものなのか」と吃驚してしまった。万引きをするくらいなのだから、この家族にはきっと良心の欠片もないものだと思い込んでいた。ここは人間不思議なもので、"良心の有無は他の行動からは分からない"ものなのだ。万引きに罪悪感を感じていたかはこの時点ではあまり定かではなかったが、あくまで良心は場当たり的なもので、一定してあるものではないのではないかと。

それからは、家族一人一人に視点を当てた場面が描かれる。どれも登場人物を深く掘り下げており、中でも家族の長女の風俗の場面では他の場面と比べてとても対照的だった。客とどこか不思議な絆を感じさせ、万引きから連想される金銭的なものとは全く異なる人間の良さとでも言えるようなものを描いていた。言うまでもなく、他の場面ではどこか金銭を匂わせるような雰囲気を醸し出していたのだ。

それから話題にもなった海水浴の場面であったり、祖母の死、それを隠そうとする家族の場面が描かれる。祖母を埋め終えた後に鳴いたヒグラシがとても印象的だった。
家族の中にも、暗に長女、長男共に実の子ではないことが描かれる。

さらに物語は進み、女の子と家族の息子が幾度目かの万引きを試みる。女の子は外で待っているよう言われたが、最後には自ら万引きをしようとし、それを庇った息子が捕まってしまう。
この息子の行動により、家族も捕まり、最終的に家族はバラバラななってしまう。
それぞれのその後は描かれるものの、その誰もが"Happy End"と言えるような終わりは迎えられなかった。

想像とはだいぶ異なった家族の成り立ち、やはりあっけなかった家族の分裂など、一言で述べるならとても奇妙な物語だった。
一番心に引っかかったのは、物語の"転"とも言うべき、女の子を庇った息子の行動である。「口で言えばよかったんじゃ?」とは思ったが、おそらくこの男の子は一般的な罪悪感を持ち合わせていたんだと思う。だからこそ、新しく入ってきた女の子に自分と同じような過ちを犯して欲しくなかったんだろう。初めて女の子に万引きを手伝わせた後の「こいつ役立たず」と言うセリフからもなんとなくその気持ちが伺える。ただ、女の子が自発的に万引きしようとしたところや、元の家庭に戻った後の生活を見る限りでも、幸せな人生を歩むのは難しいだろうという雰囲気を感じさせる。結局、この男の子の行動は他者を不幸にさせるようにしかはたらかなかったのだ。

こういった側から見て不幸な家族というのはどれくらい存在するのだろうか。そして、その家族は自身のことをどう思っているのだろう。
母親は、捕まった際には「これまで幸せだった」と言っていたし、やはり幸不幸は当の本人にしか分からないものなのだろう。だからといって、いつ幸せが転じて不幸を呼んでしまうかも分からない。だからこそ、今ある幸せを大切にしていこう、そんな風に考えさせられた作品だった。
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