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万引き家族のhiroのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
5.0
設定5/脚本5/役者5/映像音楽5/個性5
設備相性:TCX△

心の豊かさとは。貧しさとは。血の繋がってない家族一人一人にフォーカスし、光と闇を描いた是枝監督最高傑作。
ヒューマンドラマは多面的な理解ができる作品だとぐっと評価があがるのですが、今回はまさにそれでした。
この家族がYESなのかNOなのかに正解はない…※万引きは犯罪です。

脚本もよかったがなんといっても役者陣。
樹木希林は老いさえも個性にしてしまう。
リリーフランキーはまあいつものハマリ役笑。
松岡茉優にハズレなし伝説更新。
ちょい役にして圧倒的存在感を出した池松壮亮。
子役はハードルあがったなあ笑、プレッシャーでグレませんように。

そして安藤サクラ。出演作品を観たのは初めてでした。監督の言葉を借りるなら「なにかとんでもないものを見てしまった」。この人なしにはこの作品は語れない。是非一度映画館へ。

前半は子供をネグレクトから助けたり、事故で労災がおりなくても助け合って強く生きる姿、子供は学校に行けなくたって…
金銭的な余裕が豊かさのすべてではないと言いたげな描写が続く。
大人数の家族だけど1シーンは主に2人ずつ。客観的な背景が遮断されたカメラアングルで、登場人達への同情や共感をぐいぐい引き出される。

でもやっぱりおかしいんですよね。やってることは万引きに誘拐。年金+3人分の所得、子供の学費はゼロ。普通の家庭なら生活保護も検討できる。お金には苦しいでしょうけど毎日の食料品と日用品の大半を万引きしてくるってのは異常。
この家はやっぱり血の繋がらない人たちの世間からの隠れ家にすぎない。

家族の死を機に歯車が狂い始める。
初枝の通帳を手中にし喜ぶ治と信代、
初枝という心の支えを失う亜紀、
万引きに罪悪感を抱き始める祥太。
そして妹思いの祥太のとった行動ーー

ラストでは万引き家族の心の貧しさを突きつけられる。
彼らの心は豊かではない。仮面夫婦は自らつくりあげた仮面家族に責任をとらない。とれない。
それは偽物の家族だったと言われても言葉を返せない。
でも彼らは全員幸せだった。金も心も貧しくても幸福感は実現できた。
善悪こそ区別はつかなかったが互いの心の弱さを拠り所にあの家に巣食っていることが幸せだった。

唯一心の豊かさを見せてくれたのが信代の母性。安藤サクラの最高の演技もあいまってこの映画を傑作たらしめる決定的要素だった。

★★★以下核心を含まないネタバレあり★★★

「あなたは子供たちになんと呼ばれていたんですか?」
テーマは『そして父になる』と近いがこんなにグサッときたシーンはなかった。ネグレクトしてた実親にすら母親として負けた(と評価されてしまう)悔しさ。あの瞬間彼女は改心をしたのだと思う。まっとうに生きることのメリットに気付いたんだと思う。

現実を知り、他人を知り、自分の弱さを知り。そういう土俵が整ってようやく「愛する家族がいれば豊かだよね」「幸せなら豊かだよね」という議論ができるんだろうと、そんな気がしました。
宗教や哲学ではなく、もっと身近な"愛"を描いた素晴らしい作品でした。満を持して年間満足度1位。

2018-68(58) 第1位
2020-71(再)
再鑑賞:②2020/7/17 Netflix
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