ロッツォ國友

万引き家族のロッツォ國友のレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
3.5
「…何してんの?」
「えぇ?あ、ほら…雨だから」


万引きで繋がる奇妙な「家族」の共同生活。
全編に渡って満ちている不思議な暖かさと生活感。
キャストが良いですね。組み合わせが。
あんまりなかった組み合わせに見えた。
役者としては違う分野でやっている人達を集めた感覚があったけど、こうして「血は繋がらないけど共生するコミュニティ」の表現としては絶妙な配役に思えました。

とにかく生活感がスゴい。小道具というか家の内装も、貧しさの中で暮らしを回している感じがとてもよく表れていた。
本作のほとんどのシーンは、この共生を通じた人間関係の描写で成り立っているわけだから、生活感は絶対に外れてはならない要素だろう。
その辺がバッチリ表現されていたと思う。



優しくて、ほのぼのしてて、なんでも分かち合って暮らしているが、人としては決して正しくはなく、傷を負ったまま生きる彼らの共生は、穏やかながらも見ていて胸が痛むものがある。

彼らがどういう人となりであれ、真面目に生きている人々の仕事の全てに泥を塗るような彼らの生業は、決して許されてはならない犯罪行為だ。
断罪されなければならない。

ただ、社会を「真っ当」に営んでいても、コミュニティが人間で構築されている以上、彼らのようなシステムをはみ出てしまう存在は必ず現れるし、彼らを取り巻く環境は決して彼らだけで好きに創り出したものではない。


とても生活費には足らないような賃金設定のいかがわしい非正規雇用で、労働者の権利が平然と踏み潰されているシーンが幾つかある。
社会のシステムからあぶれ、常習的な犯罪に手を染める彼らは問題だが、彼らのような弱者を食い物にして成り立っているのもまた社会ではないか。



万引きや誘拐といった犯罪行為を正当化する作品だ!とのトンチンカンな批判があるらしいが、正しいとか正しくないとか以外のモノサシを持たぬ者どもに、彼らの痛みも彼らの苦しみも見えるはずがない。
そういう連中の無理解を炙り出した、という点も、本作が世に出された意義の一つではないだろうか。


犯罪は犯罪だ。
もちろん、捕まえなくてはならないだろう。


だがそれはそれとして、手錠をかける前に、そこに何があったのか想いを巡らすべき事だってある。
児童虐待されていようが、誘拐するのは間違いだ。
でも親元に置いているのが全面的に正しいのか?
彼らがやらかす前に、社会がやるべき事があったのではないか?

あの「家族」がうまいこと運営出来ているということは、その分だけ社会が正常に機能していないことも意味している。
共生を前提にした運命共同体としての彼らの生活は、その行いの間違いだけでは一概に否定しきれないものがある。
情も移る。
彼らをあの家から締め出して施設に入れたら、万事解決だろうか?



映画の終わり方も良い。
意表をつく感じはなく、まぁこういう着地が一番無難ですよねって感じの置き所。
エンターテイメントとしては刺激に足りない感じもあったが、問題提起としてはあるべき終わり方に思える。

死ぬほど感動!!というタイプではないが、擁護しがたく、しかし否定しきれぬ形無き人の生のあり方を、歪で繊細な存在そのままに描いており、そしてそれがちゃんと多くの人の議論を巻き起こしてもおり、素晴らしい作品であったことは間違いない。


目に見えないあの空気を物語の中で可視化し提示する……これは凄い技術である。
決して居てはならない居心地の良い場所を見つけてしまった感じ。

家族って、なんだろう。
今後、家族や社会について考える為の良いキッカケを得た気がした。

我々の生活圏の本当にすぐ近くに、彼らのような存在って絶対に居るはずなんだよな。意識しないだけで。
観に来る人の99%は万引きなんかやらないだろうが、自分達の問題として受け入れて良い内容だと思った。


こりゃ、もうちょい回数を重ねる必要があるかな。
何とかドール賞を取るだけありますな。

コロッケが出るシーン、どれもすごく好き。
Blu-ray出たら買うと思う。
ロッツォ國友

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