10円様

万引き家族の10円様のレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.6
ともすれば犯罪者を肯定的視点から見ているような、その場限りの涙物語になり得なくもない。もしくは暴力やネグレクト等の虐待家庭への社会的警鐘ともとれるかもしれない。家族の在り方とは何なのか?社会問題として顕在化されてきている事象へのアンチテーゼを孕ませている気もする。しかしなぜ本作が単にメッセージ性だけにとどまらない大衆映画として成立したのか。それは本作が是枝監督の映画であって、その監督の厳しい注文に完璧に応えた役者陣の静かな熱演があってこそのものだと思う。

是枝監督の映画は匂いまで観客に届ける。

「空気人形」や「誰も知らない」など全くカラーの異なる作品からも全く異なる匂いがする。それは今作に置いても同じで、夏のうだるような暑さの中で身を寄せ合う人間の汗臭さや、廃屋の様な家から漂う生活臭、不思議な事にカップ麺からでさえ匂いが見える。それがとても現実的で、本当にこんな家族がいるように思えてしまう。

また今作最も注視すべき役者陣の演技には本当に魅入ってしまった。家族全員が素晴らしい存在感を放っていて、妙に演技臭くなく、かと言って全くの自然体というわけでもないこの絶妙な加減具合が「自然な映画」というものになっていた。これに応える事が出来た子役も含めた役者陣に拍手を送りたいです。特に同僚に子どもを隠している事がばれ脅迫された時の安藤サクラの態度、海で遠くを見つめて独り言のようなものを言っている樹木希林の表情と間が印象的で、わずか数十秒の時間がとても長く感じられるほどのめり込んでしまった。
反面ゲスト的に出演した有名俳優がどことなく嘘くさくなったのが残念であった。

血より濃い絆で結ばれた家族…と思っていたらある瞬間から綻び始める流れは、この映画を綺麗事で終わらせない監督の強かさが感じられた。実際はもっと複雑で、人生を奪われた人間だっているんだぞ…と。それでもこの家族を許せるかという問題提起すら投げられた感がある。涙は確かに流したよ。でもそれは崩壊した家族のため?崩壊後のそれぞれの人生が暗闇でしかない事のため?自分の中で折り合いをつけるのが非常に困難な完結の仕方はやはりもどかしい。

本当はもっと点数高いのだが、亜紀ちゃんのエピソードをもう少し掘り下げて欲しかった。魅力的なキャラクター且つ役者だったため少し不完全燃焼感が残った。それと祥太が最後に放った衝撃的な一言。あそこで映画がフェードアウトするなんて…エンドロールは開いた口が塞がらなかったよ。一体どう解釈すれば良いのか。答えに近づけば近くほど、悲しくなって行きそうである。
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